
ここだけの話、今回はこんな話です
「私たちがいなくなった後、この子はどうやって『お金』と付き合っていくのだろうか」
障害のあるお子さんを持つ親ならば誰しもこのような不安を抱えています。
今回は、そんな発達障害のお子さんを持つお母様から寄せられた、ある切実な逆転劇をご紹介します。
舞台は、大企業の特例子会社。
フルタイム勤務・月収20万円という「自立」に近い待遇を受けながらも、その全額をゲームに使い切ってしまう22歳の息子さん。
他で「それだけ稼げれば無理だ」と突き放された彼が、なぜ障害年金を受給することができたのか。
お母様の心の叫びと、みんなのねんきんが障害年金受給のために主張した「逆転のロジック」を詳しく解説します。
ここだけの話、今回はどんな事例?
発達障害を持つAさん 有名企業に就職したものの・・
22歳の息子さん(Aさん)を持つお母様からのご相談でした。
Aさんは幼少期から発達障害(ADHD・ASDなど)と診断され、周囲のサポートを受けながら成長してきました。
小学校は支援学級、中学・高校は養護学校。
ご両親は、Aさんの特性に合う環境を必死に探し続けてこられました。
その努力が実り、Aさんは養護学校の紹介で、ある有名企業の特例子会社に就職したのです。
メモ
特例子会社とは、障害者の雇用促進と安定のために、障害者雇用に特別な配慮を行い、厚生労働大臣の認定を受けた子会社のことをいいます。障害の特性に合わせて業務内容や量が調整された事務補助、清掃・管理、物流、製造など、親会社から受託した定型業務が中心となります。農業に従事するケースもあります。
Aさんは農業部門で、毎日泥にまみれて懸命に働いています。
「あんな有名企業で、月20万円も稼いでいるならもう安心ね」
事情を知る数少ない親族や、かつての学校関係者からは、そんなふうに声をかけられることもありました。
大企業の特例子会社という「安定した場所」で得ている、20万円という給与。
障害があることを公にせず、限られた関係の中でひっそりと支え続けてきたご両親にとって、その数字は本来なら喜ぶべき「成果」のはずでした。
しかし、お母様は、その言葉に力なく微笑むことしかできませんでした。
お母様だけが知っている、もう一つの「真実」があったからです。
手元から消える20万円の給料
お母様が私たちの前でポツリとこぼした言葉。
それは、あまりにも重く、切実なものでした。
「息子は、働いて得たお金を、すべてゲームの課金に使い切ってしまうんです……」
優先順位がつけられないという「障害」
Aさんは、自分が1ヶ月間、朝から晩まで汗を流して働いて得た「20万円」の価値を、どうしても理解することができません。
画面の中でキラキラと光るアイテム。強力なキャラクター。
その一瞬の快楽を手に入れる衝動を、抑えることができないのです。
「これを使い切ったら、明日食べるものがなくなる」
「家賃を払わなければ、住む場所を失う」
そんな、生きていくための「当たり前の優先順位」が、脳内で機能していません。
結果として、20万円の給与は給料日から数日のうちに消えてしまうのです。
親の財布が「生命維持装置」に
お母様は、Aさんの給料を管理することができず、結局、ご自身のパート代や貯金から、Aさんの食事代、光熱費、携帯電話代をすべて支払っていました。
「息子に給料を任せたら、その日から彼は餓死してしまいます。でも、彼には『自分は働いて稼いでいる』というプライドがある。だから、私が代わりに払っていることを、彼自身もうまく理解できていないんです」
そう語るお母様の様子は、疲れ切っていました。
月収20万円は、Aさんを自立させるものではなかったのです。
「お金を使える自由」だけを与え、その尻拭いをすべて親に押し付ける、残酷な状況だったのです。
募る親亡き後の不安
お母様をさらに追い詰めていたのは、金銭面だけではありません。
日々の、目に見えない「身体的な支え」もまた、限界に達していました。
1日2回の「命がけの送迎」
Aさんは、一人で公共交通機関を利用することが困難です。
パニックになりやすく、不測の事態(電車の遅延など)に対応できないため、毎日の通勤はご両親による「完全送迎」が条件でした。
朝、まだ暗いうちから車を出し、不慣れな運転で職場まで送り届ける。
夕方、疲れ果てたAさんを迎えに行く。
これを、Aさんが就職してから1日も欠かさず続けてきました。
「今はまだ、私たちが元気だからハンドルを握れます。でも、あと10年経ったら?私たちが免許を返納したら、この子の『月収20万円』は、その瞬間にゼロになるんです」
代わりが誰もいないという現実
お母様が風邪で寝込んだ日も、お父様が腰を痛めた日も、送迎は休みません。
自分たちが休むことは、Aさんが職を失うことを意味するからです。
「私たちがいなくなった後、誰がこの子を職場に連れて行き、誰がゲームに消えたお金の代わりに食事を用意してあげるのでしょうか?」
この不安から、お母様は夜中に何度も目が覚めてしまうとおっしゃいました。
暗闇の中で一人、Aさんの寝息を聞きながら、「いつまで続くのだろう」と涙を流す夜が何度もあったというのです。
ここだけの話、何が問題なのか?
「障害年金はまず無理です」
お母様は、「みんなのねんきん」に相談される前に、他の専門家にも相談していました。
しかし、そこでの対応はどこも似たようなものでした。
「月20万円もの給与があるなら、生活能力があると見なされます」
「大企業の特例子会社とはいえ、フルタイム勤務ですよね?それなら障害年金はまず無理です」
他では、書類上の「月収20万円」「厚生年金加入」「週5日勤務」という数字だけを見て、Aさんを「自立した社会人」だと判断。障害年金は無理だと言うのです。
しかし、それは「親という強力な補助輪」がついている自転車を見て、「この人は一人で自転車に乗れている」と評価するようなものです。
お母様は思いました。
「私たちが必死に支えて、彼を働かせていることが、逆に彼を苦しめているのでしょうか……」
一般的には就労していれば障害年金は難しいが・・
ここで、
障害年金を受給するためには、対象となる障害をお持ちであり、その障害により生活することが困難であることが必要です。
そして、
その困難さに応じて、3つの障害等級が定められています(出典:国民年金・厚生年金保険「障害認定基準」|日本年金機構 太字部分は筆者編集)。
最も重い1級は、
身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のものとする。この日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度とは、他人の介助を受けなければほとんど自分の用を弁ずることができない程度のものである。
とあり、すなわち常時介護が必要な状態です。
2級では、
身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が、日常生活が著しい制限を受けるか又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のものとする。この日常生活が著しい制限を受けるか又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度とは、必ずしも他人の助けを借りる必要はないが、日常生活は極めて困難で、労働により収入を得ることができない程度のものである。
とあり、常時の介護は不要なものの、就労不能な状態です。
3級では、
労働が著しい制限を受けるか又は労働に著しい制限を加えることを必要とする程度のものとする。
とあり、就労はできても一般社員と同様のフルタイムでは働けないような状態です。
とすれば、
他で障害年金は無理と評価されるのも致し方ないと言えます。
ただ、表面的な杓子定規な判断なら誰でもできます。
みんなのねんきんでは、ここからが専門家の腕の見せ所だと考えます。
専門家を名乗る以上はさまざまな角度から年金受給の可能性を追求する姿勢が大事だと思うからです。
とはいえ、
Aさんの「フルタイム就労」「月給20万円」という事実は障害年金受給において圧倒的に不利な状況であることは間違いありません。
障害年金受給のためにこのような状況をどう乗り越えるかが問題となります。
ここだけの話、みんなのねんきんはこう手続きを行った
3つの主張で「障害状態」を立証する
障害年金の手続きにおいて、単に「お金がない」「送迎が大変だ」という主張だけで審査が通ることはありません。
そこで、Aさんの事情を詳細に分析して、
なぜ、それらの事情が年金受給のための、法律上の『障害の状態』に該当するのか
というロジックを構築して、主張を展開することにしたのです。
私たちが構築した戦略は、大きく分けて3つです。
①「金銭管理の不能」を日常生活能力の欠如として立証
障害年金の精神障害用診断書には、「金銭管理と買い物」という判定項目があります。
私たちは、単にAさんが「無駄遣いをする」という表現ではなく、以下のように実態を言語化しました。
- 「消費の優先順位が判断できず、生命維持に必要な支出(食費・住居費)を放棄してしまう」
- 「給与全額を嗜好品(ゲーム)に投じてしまうため、親による金銭の完全管理と生活費の補填がなければ、生命の維持が不可能である」
つまり、「稼ぐ力(就労能力)」があっても、「生きる力(生活維持能力)」が欠如していれば、それは立派な障害状態であるというロジックです。
②医師への「診察室の外の真実」の伝達
医師は、Aさんが診察室で「仕事頑張っています!」とハキハキ答える姿しか見ていません。
そこで、私たちは医師に対し、以下の事実をまとめた詳細な資料を提出しました。
- 通勤における親の完全送迎の実態(自力通勤不可)
- 職場での「全指示・別室休憩」という特別な配慮(通常の労働能力との乖離)
- 家庭での「食事・洗濯・金銭管理」のすべてを親が担っている実態
医師は、私たちの資料を読み、「なるほど、これほどまでの援助があって初めて、この就労は成り立っているのですね」と深く理解してもらえたのです。
そして、Aさんの実態に即した診断書を作成してくれました。
③「所得」ではなく「援助」を強調した申立書
障害年金の手続きでは、ご本人のこれまでの生活をまとめる「病歴・就労状況等申立書」の書面の提出が必要です。
この申立書には、上で説明したお母様の「静かなる絶望」を展開しました。
月20万円の給料が、すべてゲームに消えていく虚しさ。
親がいなくなった瞬間に、その給料も住む場所も失われるという危うさ。
障害年金を審査する方々に、
「Aさんを支えているのは、企業の給料ではなく、親の献身である」
と強調したのです。
他で無理と言われた障害年金の逆転劇
手続きの結果、私たちの主張が全面的に認められました。
20歳の時点にまで遡り、「二十歳前傷病の障害基礎年金」の受給が決定したのです。
メモ
生まれつきの障害など、年金加入前に生じた障害に対する年金が「二十歳前傷病の障害基礎年金」です。保険料の納付がなくとも受給できるなどの特徴があります。
決定通知を手にしたお母様は、震える声でこうおっしゃいました。
「これで、私たちが死んだ後、この子が誰かに金銭管理を助けてもらうための『費用』を残してあげられます。このお金があれば、息子は餓死せずに済むかもしれません……」
お母様が手に入れたのは、障害年金という目先の現金ではありませんでした。
Aさんの将来に対する「最低限のセーフティネット」でした。
障害年金があれば、将来親がいなくなった後、成年後見制度を利用したり、生活支援サービスを受けたりする際の経済的な基盤になります。
さらに、年金の受給が決定したことで、お母様はもう一つの備えである「障害者扶養共済制度」への加入も前向きに検討できるようになりました。
障害年金という「月々の支え」に、扶養共済という「親亡き後の終身年金」を組み合わせる。
それは、お母様からAさんへ贈る、最高にして最期の「お守り」なのです。
メモ
「障害者扶養共済制度」は、障害のある方を育てている保護者が毎月掛金を納めることで、保護者が亡くなった時などに、障害のある方に対し、一定額の年金を一生涯支給するという制度です。以下のリンクを参考にしてください。
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障害者扶養共済制度|厚生労働省
www.mhlw.go.jp
ここだけの話、今回のまとめです

今回は、他で「無理」と言われた障害年金を”みんなのねんきん”が受給に結びつけた舞台裏として第5弾をご紹介しました。
ポイントは以下のとおり。
- 「給与を使い切る」のは、性格ではなく障害の特性です → 必要なことにお金を使えないことは、日常生活能力の著しい制限として認められ得ます。
- 「親の援助」は、子供の元気さの証拠ではありません → 送迎や金銭管理の肩代わりは、むしろ「支援の必要性」の強力な証明になります。
- 働きながら受給することは、ズルいことではありません → 自立への道を歩むための正当なステップです。
- 「親亡き後」の備えを多角的に考える → 障害年金の受給は、「障害者扶養共済制度」など他の支援制度を活用する際の精神的・経済的な安心材料にもなります。
「お金をゲームに使い切る」というご相談を伺うたび、私はお母様たちの「未来への絶望」の深さを感じます。
しかし、その絶望を希望に変えるのが障害年金です。
お母様、お父様。
あなたが一生懸命にハンドルを握り、お子様の生活を整えてきたその歳月を、決して無駄にはさせません。
その献身を、国が認める「権利」へと変えるお手伝いをさせてください。
「うちの子のこの状況も、障害と言えるの?」
「働いているけれど、将来が不安で仕方ない」
そう迷われたら、まずはLINEから、今の日常の困りごとをそっと教えてください。
あなたが安心して、お子様の隣で笑っていられる時間を、1分でも長く増やすために。
みんなのねんきんは、これからも、戦うご家族の最強のパートナーであり続けます。
【次の一歩として】まずは、お子さんの1ヶ月の支出を、ざっくりとメモしてみませんか?
「何に、いくら使っているか」「親がいくら補填しているか」。
そのメモが、未来を変える第一歩になります。
具体的な相談は、いつでも「みんなのねんきん」でお待ちしています。



岡田真樹
みんなのねんきん社労士法人代表