今回のコラムは年金実務者向けの内容です。
ここだけの話、今回はこんな話です
みんなのねんきん社労士法人では、日々、様々なケースで障害年金請求を行っています。
ここだけの話、必要書類の提出にあたり、すんなり行かないことが少なくありません。
キャリアを積んだ私でも、初回の書類提出時点では判断が難しいものもあり、日本年金機構から書類が戻ってくること(これを「返戻」といいます)を覚悟して提出することもあります。
メモ
返戻とは、日本年金機構に提出した書類の内容や添付書類に不備があったため戻されることです。対応次第では年金受給につながらないこともあるので細心の注意が必要です。
過去の事例や不服申立てによる裁決例に照らし合わせても、返戻による対応方法が異なります。
そんなとき、実感させられることがあります。それは、
障害年金手続きは、対応方法が個別のケースで異なるということ。
それが、障害年金手続きを難しくする原因ではないかと思うのです。
そこで、
今回は最近1年間の返戻対応で、私が特に印象に残った事例を紹介したいと思います。
今回は後編として、どのように年金受給に結びつけたか、解決編をお届けします。
前編の詳細はこちらです。
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世にも奇妙な返戻物語 ー2022初夏の障害年金特別編ー 前編
ここだけの話、今回はこんな話です みんなのねんきん社労士法人では、日々、様々なケースで障害年金請求を行っています。 ここだけの話、必要書類の提出にあたり、すんなり行かないことが少なくありません。 キャ ...
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ここだけの話、こんな症状・こんな事例です
前編のあらすじ
うつ病とてんかんで悩むAさん(20歳代)。
過去に中学から高校まで、「てんかん」発作があり治療を受けていました。
その後は、発作もなくなり、就職して社会人になったのですが、今度は「うつ病」を発症。
さらに、てんかんによる発作も出現しているとのこと。
「うつ病」と「てんかん」の2つの傷病名による障害年金請求を考えたのですが、生じる問題が2つ。
- 初診日は中学時代か?社会人時代か?
- 現在の症状が初診日の病気と関連性があるのか?
悩んだものの、みんなのねんきんでは、
- 社会人時代を初診日として障害厚生年金・障害基礎年金を請求
- 「てんかん」は再発したと考え、「うつ病・てんかん」を一つの精神障害として請求
と考え、請求書類を作成、日本年金機構からの物言い(返戻)覚悟で年金請求書を提出しました。
予想通りの返戻!しかし・・・
年金請求書を提出して6週間後、予想通り、日本年金機構から返戻がありました。
(「相当因果関係あり」と判断されれば、中学生時代が初診日ということとなり、障害基礎年金しか受け取れません。)
障害厚生年金から障害基礎年金への変更の指示があると思い、対応を覚悟しました。
しかし、返戻の内容を確認してみると、このような記載が。
「うつ病」と「てんかん」は、相当因果関係がなく、個別認定ができないと判断されました。
頭の中は混乱しています。
そして以下のように続きます。
つきましては、「てんかん」を前発障害、「うつ病」を基準障害とした「初めて障害等級の1級または2級に該当したことによる請求」をご検討いただきます。
さらに混乱するような内容でした。
一旦冷静になって、「初めて障害等級の1級または2級に該当したことによる請求」(長いので以下、このコラムでは「初めて1・2級」と略します)を再確認します。
指示のまま、対応していいか、落とし穴がないか、確認しないといけません。
メモ
恐ろしいことに、指示どおりに対応すると、場合によっては年金が受給できなくなるなどの不利益を受けることがあるので、慎重に対応することが求められます。
複数の障害を併せて障害等級に該当すれば年金を受け取れる
ここで、
「初めて1・2級」は、法律では以下のように定められています。
疾病にかかり、又は負傷し、かつ、その傷病(以下この条において「基準傷病」という。)に係る初診日において被保険者であった者であって、基準傷病以外の傷病により障害の状態にあるものが、(略)初めて、基準傷病による障害と他の障害とを併合して障害等級の一級又は二級に該当する程度の障害の状態に該当するに至ったとき(略)は、その者に基準障害と他の障害とを併合した障害の程度による障害厚生年金を支給する。
(出典:厚生年金保険法第47条の3 筆者が編集して簡略化)
今回のケースでは、
前発の「てんかん」では、1・2級に該当していないものの、後発の「うつ病」を基準傷病として、「てんかん」と「うつ病」を併せた基準障害で1級又は2級となる
ということになります。
通常の障害年金請求では、障害等級は審査で決定されるものです。
ですので、障害等級の判定が難しい精神障害では、請求者が自ら1・2級に該当していると訴える「初めて1・2級」請求は、レアケースなんです。
この請求方法の注意点は、初診日要件、保険料納付要件も基準傷病の受診日で確認される点。
とすれば、
今回のケースは、社会人時代(厚生年金保険)の受診日で確認されます。
もともと、社会人時代を初診日として請求していますので、初診日要件・保険料要件については問題ありません。
メモ
厚生年金保険に加入していれば、保険料の滞納の問題が生じないため、「初診日を基準とした直近1年以内に滞納がない」として保険料納付要件を満たせます。
返戻には、「初めて1・2級」の請求方式に訂正する方法とともに、そのまま「事後重症請求」で処分を希望できる旨もありました。
審査側が1級または2級に該当していると判断しているので、手続き上の訂正が必要・・・と返戻の内容からは判断できます。
無事に2級が決定!
そこで、日本年金機構の指示通りに対応することにしました。
具体的な対応は、年金請求書の記入事項の訂正です。
⑭欄の(1)請求事由を「3.初めて障害等級の1級または2級に該当したことによる請求」にチェック、
(3)傷病名を「1.てんかん」「2.うつ病」と分けて記入しました。
過去の他の事例では、「てんかん」と「うつ病」が相当因果関係ありと判断され、同一疾病とされていました。
ところが、今回は相当因果関係は無いと判断しているわけです。
つまり、障害年金の審査は、個々の状況に応じて、個別具体的に判断されていることが、改めて実感できました。
初診日の「相当因果関係」「再発」「継続」の考え方は、医学的だけでなく、社会活動などの状況も含めないといけません。
一人一人、これまでの病歴などが違いますから、過去の事例にとらわれることなく、個別に対応していくことが重要になります。
そして、無事に障害厚生年金2級が決定されました。
今回の返戻によって、初診日が確定したため、過去に遡った年金請求(障害認定日請求)も行えることになりました。
メモ
障害年金の原則は、初診日から1年6ヶ月を経過した日に障害状態に達していれば支給されるというものです。例えば「1年6ヶ月を経過した日」が今から3年前であれば、3年分の年金をまとめて受け取れる可能性があります。ただし、過去のことになるので難易度は高いです。
ここだけの話、今回のまとめです
今回は、複数の精神疾患がある場合の障害年金請求について、日本年金機構からの返戻に対する対応をまとめました。
- 障害等級を請求者自身が訴える「初めて1級・2級」請求は精神障害でもできるケースがある
- 「初めて1級・2級」請求は、後発の障害である基準傷病で要件が確認される
- 障害年金の審査は、過去の事例にとらわれず、個々の状況に応じて、個別具体的に判断されている
今回の手続代行を通じて、思い出したことがありました。
それは、
駆け出しのころ、先輩社労士から、障害年金手続き代行業務は「人間力が問われる」と言われたことです。
「人間力」は、具体的に説明が難しいですが、通り一遍の対応ではなく、依頼者一人一人に寄り添って、最善の結果となるよう努力できる力・・・と理解しています。
これがもし、
複雑な案件なので難しい
過去の事例では最初の「てんかん」と今の「うつ病」は相当因果関係があるから難しい
したがって、弊社では無理!
というような対応をしていたら、受けられるはずの社会保障が受けられなかったことになります。
今回の事例からもわかるとおり、障害年金制度は、個々の状況に合わせて審査されます。
ですので弊社では、
条件Aの人
条件Bの人
条件Cの人
以上の条件全て満たした人の相談大歓迎!
というような最初から相談者を限定せず、しっかりとお話を伺って、最善の道を探るよう努めています。
これからも人間力を高めることを怠らず、必要な方へ障害年金が行き渡るよう、業務を行っていきます。
岡田真樹
みんなのねんきん社労士法人代表