国民年金vs厚生年金 実例から考えるこんなに違う障害年金の保障内容

【みんなのねんきん】岡田社労士

岡田真樹

みんなのねんきん社労士法人代表

ここだけの話、今回はこんな話です

障害年金は、初めて医者にかかった日(初診日)にどの年金制度(国民年金か厚生年金)に加入していたかが重要。

受け取れる年金が変わるからです。

ところが、弊社に寄せられるうつ病などの精神疾患では、その加入していた制度がハッキリしないケースがあります。

というのも、

発症時には症状が軽く治療の必要がなかったが、数年経ってから再発。

症状が重くなり、そこで初めて障害年金を検討することがあるからです。

このような場合の障害年金請求の初診日はどのように考えたらよいのでしょうか?

今回は弊社に寄せられたAさんの事例をもとに初診日が異なることで年金の保障内容が大きく異なること、そして保障内容が有利になるよう弊社で手続きを進めた事例をご紹介します。

ここだけの話、こんな症状・こんな事例です

Aさんの病歴は以下のとおりでした。

Aさん 36歳 既婚(子なし) 18歳から現在まで同一の医療機関で治療を受けてきた

  • 学生時代(18歳)にうつ病発症、治療開始
  • 高校は卒業したものの、症状のためにすぐに就職できず
  • 治療を受けながら20歳頃にはアルバイトができるようになり、22歳時に正社員(厚生年金加入)として就職
  • 23歳時には症状が軽くなり治療終了
  • 33歳時、職場の人間関係でうつ病再発、現在に至る

Aさんの初診日は、学生時代の18歳時でしょうか?

22歳時に正社員として就職し再発するまで、10年も厚生年金の被保険者となっています。

厚生年金からの障害年金は受け取れないでしょうか?

ここだけの話、何が問題なのか

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18歳だろうと、33歳だろうと年金もらえるならどちらでもいいのでは?

いえ、そうではありません。大きく差が生じます。

障害年金は障害の状態に応じて重い順に1・2・3級とありますが、1級のケースはまれなので、Aさんが2級として考えてみましょう。

18歳時が初診日の場合

18歳で学生であれば、どの年金制度にも加入していないはず。

ただ、これで障害年金の保障が受けられないのは気の毒ですので、年金制度上20歳前の初診日による障害でも保障することになっています。

この場合は国民年金制度から障害基礎年金が支給されます。

年額で約78万円となります。

18歳時を初診日として年金請求する場合は、この障害基礎年金のみの保障を受けます。

33歳時が初診日の場合

33歳時は厚生年金に入っていますので、障害厚生年金が支給されます。

障害厚生年金は定額の障害基礎年金と違い、本人の給料で年金額が変わります。

仮にAさんの平均月給が20万円だとすると、障害厚生年金は年額で約33万円。

メモ

20万円 × 0.548%(法定の率) × 300(最低保障月数)で計算すると、32万8,800円となります。

ここに配偶者分の家族手当(年額約22万円)が加算されるので、計55万円(障害基礎年金には配偶者の家族手当はありません)。

更には、会社づとめの人は意識していませんが、厚生年金に入っていると併せて国民年金にも入っています。

ですので、障害基礎年金として年額約78万円。

合計すると、年額133万円。

つまり、33歳時を初診日として年金請求すると、障害厚生年金 + 障害基礎年金の保障を受けられるわけです。

この違いは大きいです。

どうすれば再発時を初診日として審査してもらえるか

ここで、

障害年金は、申請主義を取っています。

私たち請求者の申請のみに従って行政側で審査するということ。

例えば、

甲と乙の方法があり、乙の方が請求者にとって有利であっても、行政側は申請された甲で審査します。

「乙の方が有利なので乙で決めておきますね!」

なーんて、気を利かせてくれることはありません。

つまり、

請求者が、初診日を18歳時として請求すれば、そのまま18歳時を初診として日本年金機構で審査が進められます。

逆に何の工夫もなく、33歳時として請求すれば、”これ初診日は18歳でしょ?初診日が違うので差し戻し!”とされるでしょう。

確かに最初の診断は18歳時ですが、一旦治ったわけですからその後の再発時を初診日として審査してもらえないか?

これだけ保障の差が大きければ、弊社に依頼してくれたAさんのためにも、18歳時を初診日として請求するわけにはいきません。

どうすれば、33歳時を初診日として審査してくれるか、そこが問題となります。

ここだけの話、みんなのねんきんではこう対応した

社会的治癒という考え方

今回のケースのように、再発を初診日として、障害年金を請求するためには、ある概念の理解が重要です。

それは、社会的治癒(しゃかいてきちゆ)という考え方

社会的治癒とは

社会保障(年金・健康保険)制度独自の概念で、最初の発病から相当程度時間が経過して再発したら、医学的判断によらずに再発後の病気は別個の疾病とみなされるというもの。行政通達を根拠とする

治癒の認定は必ずしも医学的判断によらず、社会通念上治癒したものと認められ、症状が認めれないまま相当期間就業後に同一病名が再発したときは、別個の疾病とみなされる

(当時の厚生省による健康保険に定める傷病手当金の取扱通知(昭29.3保文発第3027号) )

つまり、

社会的治癒を根拠に”一旦治ったからその後の再発時を初診日として障害厚生年金+障害基礎年金を受け取りたい!”と主張したいわけです。

ここで、

少し難しい話になりますが、障害年金を受け取るためには、現在の症状と初診日の症状に関連(相当因果関係があること)が必要です。

以前のコラムにまとめたことがあるので参考までに。

世にも奇妙な返戻物語 ー2022初夏の障害年金特別編ー 前編

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社会的治癒は、この関連性に関して、応用的な概念になります。

つまり、「相当因果関係の有無」がこの行政通達に照らして、「相当期間就労後では、どうなるかということなのです。

請求者の立場にたった権利行使を考える

まず、診断書の初診日には、18歳時に受診した日付が記入されています。

これは紛れもない事実ですので、この記載を無視して33歳時が初診と訴えることはできません。

この手元にある診断書で、18歳時を初診日とする障害基礎年金を請求すれば、受給が認められる可能性は高いです。

しかし、

再発するまでは、正社員(厚生年金の被保険者)として、10年間しっかり就労してきた事実があります。

にも関わらず、厚生年金としての保障を受けられないのでは、請求者本人に不利益です。

障害年金は一度受給を始めたら長期間保障を受けられるもの。

とすれば、

少しでも年金額が多くなるよう請求者の立場にたった権利行使を考えるべき。

そのような弊社のスタンスのもと、社会的治癒の概念を駆使し、33歳時を初診とした障害厚生年金・障害基礎年金の請求をすることとしました。

これで年金受給につなげた

さて、手続きを進めるにあたり、

社会的治癒の概念にある「相当期間」は、どのくらいの期間を指しているのか問題となります。

ここがポイントになりそうです。

「相当期間」については、残念ながら、厚生労働省の他の通達や手引きなどで、具体的な期間は明示されていません。

過去の年金請求事例・不服申立てによる裁決例などから探ってみると、社会的治癒が認められた事例では5年程度が多いです。

Aさんは10年就労されていますから「相当期間」と認められる可能性が高いと判断できます。

そこで、手続き書類において、「社会的治癒」を主張していきます。

まず、診断書の初診日18歳を前提に進めて行く必要があります。

とすれば、診断書には、18歳の受診時から現在の障害状態まで、詳細な記載が必要です。

医師に対して診断書の作成を依頼する時に、この点を意識して弊社から情報提供を行いました。

つぎに、

その他の資料で「相当期間」就労できていたこと、23歳時に症状が治まっていた事実、今回の障害年金申請に至った経緯を訴える書類を整えました。

さらには、

病歴・就労状況等申立書の内容がとても重要になってきます。

しっかりと事実を明確に記していきます。

最後に、社会保険労務士という専門家として意見書(上申書)も添付しました。

意見書の内容は、保険制度である公的年金が請求者にとって不利益になってはいけない旨を主張しました。

これらの書類を整えて、年金事務所に請求書類を提出したところ・・・。

通常、「社会的治癒」を主張した障害年金審査では、確認が必要となる事項があるため、日本年金機構より書類が差し戻し(返戻)されることがあります。

今回のケースでも返戻を覚悟していましたが、すんなり、33歳時が初診日として認められました。

無事に障害厚生年金2級が認められ、Aさんは年額で約100万円以上の年金を受け取ることとなりました。

ここだけの話、今回のまとめです

今回は、初診日による年金の保障内容の違いについて「社会的治癒」の事例と絡めて解説しました。

社会的治癒」は一般の方はご存知ない概念ですから我々専門家のスキル・ノウハウが問われます。

また、「社会的治癒」を訴える場合、通常の年金請求と異なりますので私たち専門家にとっても難易度が高いのです。

「社会的治癒」のメリットやポイントは以下のとおり。

  • 障害年金は、初診日に加入していた制度・等級で年金額が決定する

  • 医学的な判断によらず、「社会的治癒」と認められれば、再発時の受診日が初診日となることがある

  • 「相当期間」の就労があれば「社会的治癒」が認めらえる可能性があるが、専門家にとっても難易度が高い

最後に補足説明。

「相当期間」については、通達によれば「相当期間就業後に」という文言がありますが、実は就労が必須というわけではありません

学生や主婦の方でも状況によっては可能性があります。

私が過去に行った事例には、就労していなくとも「社会的治癒」と認められ年金受給につなげたケースがあります。

このような知識がなければ、ご自身で障害年金の請求手続きを行うのはむしろリスクが高いと感じます。

仮にAさんが自身で手続きを行っていたら、良くて「障害基礎年金のみ」、最悪の場合「年金を受け取れなかった」ということになりかねませんでした。

障害年金をお考えなら、最善の方法としてどのようなものがあるか、是非専門家にご相談ください。

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岡田真樹 みんなのねんきん社労士法人代表

大学卒業後メーカーに勤務。仕事中に左手を機械に巻き込まれ、親指以外を失う大ケガを負う。転職後、障害者雇用の枠で聴覚障害・発達障害・精神障害・身体障害を持つ方々と一緒に働いた経験を持つ。障害年金の手続きを自ら行なったことから年金制度に興味を持ち、社会保険労務士試験に合格。2020年よりみんなのねんきん社会保険労務士法人で実務の最高責任者を担い、2021年に代表就任。

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