ここだけの話、今回はこんな話です
統合失調症は、障害年金の対象とされる病気です。
しかし、統合失調症の病気特性により、障害年金の請求が難しいケースがあります。
このため、その手続きは非常に慎重かつ根気よく進める必要があります。
今回は統合失調症の障害年金手続きについて、みんなのねんきん社労士法人での経験を踏まえ、その難しさを解説してみます。
ここだけの話、統合失調症は障害年金の対象になります
診断が難しい統合失調症
まずは、統合失調症とはどのような病気でしょうか。
病気に関する専門サイトには以下の説明がされています。
統合失調症は、現実とのつながりの喪失(精神病症状)、幻覚(通常は幻聴)、妄想(誤った強い思い込み)、異常な思考や行動、感情表現の減少、意欲の低下、精神機能(認知機能)の低下、日常生活(仕事、対人関係、身の回りの管理など)の問題を特徴とする精神障害です。
(出典:MSDマニュアル家庭版)
説明にあるとおり、幻覚や妄想、思考の混乱などが症状として現れ、日常生活や仕事に支障をきたすことが多いです。
統合失調症の症状は、複雑で、人により多種多様です。
そのため、文献によっては、統合失調症の精神症状について「正確な説明はできない」としているものもあります。
また、
診断を下すには、6カ月以上持続する症状のエピソードが1回以上は認められなければならない。
(出典:MSDマニュアル家庭版)
とあり、診断が確定するまで長い時間がかかること、症状が多種多様で複雑なことが診断する上での難しさとなっています。
統合失調症の陽性症状と陰性症状
統合失調症の症状は、いくつかに分類されています。
その中でも特徴的なのが「陽性症状」と「陰性症状」です。
陽性症状とは
陽性症状は、「妄想」と「幻覚」が特徴と言えます。
妄想は、
- 他の人に責められている、騙されている、尾行されている、などの被害妄想
- 歌の歌詞、新聞や本の内容、が自分の事を指している関係妄想
- 他人が自分の考えを読み取ることができる、思考に関する妄想
などになります。
一方で幻覚は、
- 幻聴
- 幻視
- 幻嗅
- 幻味
- 幻触
とあり、対象がないのに聞こえたり、見えたりする症状です。
この中でも、これまでの相談のなかで、幻聴が最も多くみられます。
悪口やうわさが聞こえる
ぶつぶつ呟いている声が聞こえる
こういった症状をよく伺います。
陰性症状とは
陰性症状は、意欲や感情表現が乏しくなることが特徴です。
- 表情が無くなる、表現力がなくなる、目線を合わせない
- 話かけない、会話の返事もそっけない
- 興味の消失、楽しむ活動がない
- 人への関心がない
などです。
そのほか、
- 思考の統合性がない
- 支離滅裂な発言をする
- 思考の柔軟性がなくなる
- 注意力がなくなる
などの認知障害もあります。
統合失調症で障害年金はここが難しい
それでは、統合失調症で障害年金を請求する場合、どのような点が難しいのでしょうか。
ここで、
障害年金を受給するための日本年金機構が定めた認定基準によれば、統合失調症は、
- 残遺状態又は病状がある
- 人格変化、思考障害、その他 妄想・幻覚等の異常体験がある
ために、日常生活や就労などが困難な障害状態となっている場合、認定する
とあります。
「残遺状態(ざんいじょうたい)」とは、病気が概ね回復しながらも残っている症状・状態のことを指します。
上で説明したとおり、統合失調症には陽性症状と陰性症状がありますので、それぞれの症状における難しさを指摘します。
陽性症状の場合
上の認定基準では、「妄想・幻覚等の異常体験がある」とされていますので、陽性症状でも対象とされています。
陽性症状の妄想・幻覚の特徴をもう一度確認すると、
- 周囲が悪口を言っている
- 誰かが見ている
- 周囲がおかしなことを言っている
など、自分自身に症状があることを自覚しにくいことが特徴となっています。
したがって、統合失調症の陽性症状が出ていることがわからず、通院しない・通院を中断してしまう、ケースがあるのです。
また、治療を行っていても、医師に自身で症状を伝えることができないケースもあります。
こういったことから、陽性症状では、医療機関、医師との連携が難しいことがあります。
医師との連携ができなければ、障害年金の手続きに必要な診断書が取得できません。
こうなってしまうと、障害年金の手続きが進まない状況になってしまいます。
陰性症状の場合
この場合、上の認定基準に「残遺状態又は病状がある」とあるので、陰性症状により障害状態であることを証明していきます。
陰性症状の特徴は、上で説明したとおり、感情が乏しくなる、他人と目を合わせないことです。
これらの特徴からくる対人コミュニケーションの難しさ・就労の困難さについては比較的事実確認がしやすいです。
反対に難しいのは、日常生活や日常活動が難しいということの証明です。
なぜなら、陰性症状の特徴は、内面的なものだからです。
内面的なものが、食事の準備や入浴などの日常生活活動にどのような影響が出るか。
もっといえば、その内面的な症状により、障害年金を受給できる程度に日常生活が困難となっていることを証明しなければならないのです。
家庭内での様子となりますので、障害年金の手続きを進めるうえで、非常にその証明が困難と感じます。
ここだけの話、みんなのねんきんはこう対応する
最後に、みんなのねんきん社労士法人が受けた統合失調症のご相談から、どのように手続きを進めるかをお話ししましょう。
まず、
陽性症状の方の場合、通院が不十分となっている状況が多いです。
通院していなければ、障害年金の手続きに必要な診断書が入手できません。
したがって、医師、医療機関との連携が十分にできるようにしていかないといけません。
「障害年金をすぐに申請したい」との相談もありますが、通院・診察をまずは優先するようアドバイスをします。
そのうえで、
医師の意見を反映しながら、障害年金手続きを進めていくことになります。
陽性症状の方には、医師との連携の重要性について、説明していきます。
妄想・幻覚がある状況ですので、わかりやすく・丁寧に、粘り強く説明していくことになります。
一方で、
陰性症状の方の場合は、障害年金を受給できる程度に困難となった日常生活状況を医師に情報提供できるか、が重要です。
そのためには、相談者に対して病状や症状の聴き取りを行いますが、治療による強いお薬のために、話すことが難しい方もいます。
こういった場合、無理に対面することや電話をすることはせず、LINEやメールでのテキストメッセージによる聴き取りを行うこともあります。
相談者が日々どのように過ごしているか、日常生活を送ることで難しいことは何か、細かい場面まで聴き取りしていきます。
こうして集めた情報を医師にわかりやすく伝えることができれば、障害年金の受給が見えてくるのです。
ここだけの話、今回のまとめです
今回は、統合失調症で障害年金を請求する場合の難しさについて解説しました。
ポイントは以下のとおり。
- 統合失調症は幻覚、妄想、異常な思考や行動、感情表現の減少、意欲の低下、精神機能(認知機能)の低下等を特徴とする精神障害である
- 統合失調症には陽性症状と陰性症状があり、特に陰性症状による日常生活の困難さの証明が難しいと言える
- みんなのねんきんでは統合失調症の特性を考慮したうえで障害年金受給につながるよう、しっかりと聴き取りを行っている
統合失調症の方にどのような治療があったか、どのような生活をしてきたかをお聞きすると、想像を絶するものがあります。
陽性症状と陰性症状が重なっている方もいます。
そして、統合失調症は非常に病歴が長くなる傾向があります。
周囲の理解・援助がないと、社会へ適応していくことが難しい病気であると思います。
統合失調症の方が治療に専念できるよう、障害年金によるサポートが必要不可欠です。
みんなのねんきんは、難しい状況であっても年金受給に結びつけられるよう、今後も経験を積んでいきます。
岡田真樹
みんなのねんきん社労士法人代表