今回のコラムは年金実務者向けの内容です。
ここだけの話、今回はこんな話です
趣味で、海外のロック音楽をよく聞きます。
好きなアーティストの半生など調べてみると破天荒なエピソードだけでなく、その裏側には、アルコールやうつ病の問題を経験している方がたくさんいます。
ステージの上は、きらびやかで、「非日常の状態」。ステージでのパフォーマンスやメディアに追われるスターの生活を送っていると「日常の状態」に戻れず、自分自身がわからなくなってしまい、アルコールを頼ってしまう…。
「日常の状態」に戻れない状況は、何かしらの精神疾患にかかってることが想像できます。
華やかな「非日常の状態」の反動から「うつ病」になってしまう場合もあるようです。ロックのアーティストだけでなく、俳優や引退したスポーツ選手でも同じようなエピソードを見かけます。
うつ病になると、自責の念が強くなり、辛さを自分自身でなんとかしようとして、飲酒に頼ってしまう方がいます。
また、「非日常の状態」から睡眠に問題を生じてしまい、深く眠るために飲酒量が増えてしまう方もいます。その多量飲酒から「うつ病」引き起こす場合もあります。
もはやアルコールとうつ病がセットのようになっています。
うつ病の障害年金手続きにおいても、「多量飲酒」や「アルコール乱用」などのキーワードを見かけます。
今回は、うつ病とアルコールが関係している障害年金請求を見てみます。
ここだけの話、こんな症状・こんな事例です
うつ病とアルコール依存症を併発していることがある
飲酒の問題から発症する病気として「アルコール依存症」があります。
アルコール依存症とは
大量のお酒を長期にわたって飲み続けることで、お酒がないといられなくなる状態
(出典:厚生労働省みんなのメンタルヘルス)
うつ病の人がアルコール依存症を合併する割合をみると、うつ病でない人に比べて割合が高くなってます。
また、アルコール依存症の人がうつ病を合併する割合もアルコール依存症でない人に比べて高いとの調査結果も出ています。
<うつ病とアルコール依存症が合併するパターン>
- 単なる合併または共通の原因(ストレス・性格・遺伝因子など)による場合
- 長期の大量飲酒がうつ病を引き起こした場合
- うつ病の症状である憂うつ気分や不眠を緩和しようとして飲酒した結果、依存症になった場合
- アルコール依存症の人が飲酒をやめることによって生じる離脱症状のひとつとしてうつ状態が見られる場合
うつ病の人がアルコール依存症を合併する割合をみると、うつ病でない人に比べて割合が高くなってます。また、アルコール依存症の人がうつ病を合併する割合もアルコール依存症でない人に比べて高いとの調査結果も出ています(出典:厚生労働省e-ヘルスネット)。
つまり、うつ病、アルコール依存症のどちらが先に発症していても合併しやすいとういことです。うつ病の方の障害年金請求において、アルコールは、避けて通ることはできません。
ここだけの話、何が問題なのか
障害年金は、国民年金法、厚生年金保険法の法律を根拠として支給されます。
これらの法律の中には、給付制限が設けられています。
国民年金法第69条
故意に障害又はその直接の原因となった事故を生じさせた者の当該障害については、これを支給事由とする障害基礎年金は、支給しない。
厚生年金保険法第73条
被保険者又は被保険者であつた者が、故意に、障害又はその直接の原因となった事故を生ぜしめたときは、当該障害を支給事由とする障害厚生年金又は障害手当金は、支給しない。
不正な受給ができないようワザと障害状態になった場合には、制限され支給されません。
つまり、自分の意思で行った飲酒が原因で生じた障害では、障害年金は、支給されない、というふうに解釈してしまいそうです。
また、審査において障害状態の判定が、アルコールの影響がある状態での評価と疑われてしまい、障害の程度が軽いと判定されてしまった事例もありました。医師への説明や情報提供が足りず内容が不足していたのです。
アルコールは、給付制限の対象となってしまう・医師への説明が大変になるとの認識から、うつ病でもアルコールがからむと相談を断られてしまった、ということもお聞きします。
ここだけの話、こう対応する
違法薬物と違い、飲酒自体は、合法です。ですので、法で認められた飲酒から発症したものは給付制限の対象になりません。障害状態になろうとしてワザと飲酒を行ったかどうかは、証明できません。
この点、
国民年金・厚生年金 障害認定基準には、器質性精神障害の項に
アルコール、薬物等の精神作用物質の使用による精神及び行動の障害(以下「精神作用物質使用による精神障害」という。)についてもこの項に含める。
とあり、アルコール使用による精神の障害を除外していません。
障害年金請求でアルコールが関連していていても請求自体は問題ないことがわかりました。後は、障害状態をどうのように証明してくかが重要なポイントになります。
他の障害でも同様ですが、病気の経過を明確にしておかなければなりません。
うつ病からアルコール依存症を併発してしまったのか、アルコール依存症からうつ病を併発してしまったのか、請求者やご家族からの聴き取り、過去に通院していた医療機関から情報を得ておきます。
病歴が長いと相談者の記憶もおぼろげになっている場合があります。根気よく傾聴し、情報を得ていきます。
障害状態の状況については、アルコールの影響がない状況で、できること・できないことを具体的に聴き取りします。飲酒した状態だと健常者でもできないことが増えます。
精神的な病状のため、できないことをしっかり把握し、それを医師にわかりやすく説明・情報提供します。
また、医師に判定してもらうときには、「アルコールの影響がない」状態での判定だということを明記してもらいます。
アルコール依存症の治療過程で断酒・禁酒をされているのであれば、その事実をしっかり診断書に記入してもらいます。
アルコール依存症のみで障害年金を請求するケースもあります。
この点、
国民年金・厚生年金 障害認定基準に
アルコール、薬物等の精神作用物質の使用により生じる精神障害について認定するものであって、精神病性障害を示さない急性中毒及び明らかな身体依存の見られないものは、認定の対象とならない。(注:太字は筆者による)
とあります。
つまり、「精神病性障害を示している」こと、うつなど精神的な病状が出ていることが前提になってきます。ケースとしては、あまりないですが、アルコール依存症のみでも請求できることは覚えておいてもいいと思います。
うつ病とアルコール依存症が合併している場合、アルコール依存症のみの場合、どちらにおいても、精神的な病状により障害状態であることが障害年金請求書類で証明できなければなりません。診断書作成の前に医師への説明・情報提供をしっかり行うことがとても重要です。
病歴・就労状況等申立書なについても、聴き取りした事実を反映させ病気の経過をわかりやすく書かなくてはなりません。
うつ病を発症した経緯や飲酒の状況など時系列を整理し丁寧に作成します。
ここだけの話、今回のまとめです
今回は、うつ病とアルコールについての障害年金をまとめてみました。
ポイントは以下のとおり。
- 飲酒は、給付制限の対象ではない
- 精神的な病状を把握するために傾聴による聴き取りや情報収集をしっかり行うこと
- 医師に精神的な病状を具体的に情報提供すること
- 障害状態の判定にアルコールの影響はないこと
うつ病とアルコール依存症が合併しているケースは、よくあります。
受給制限になってしまうからとの誤った認識で相談を断らないようにしましょう。相談者の人生がかかっている場合もあります。
障害年金は、雑に手続きを行うと、書類の中のたった一文の記述によって、審査の結果が変わってしまうこともあります。障害状態が該当していていても審査に必要な事実を証明できず不支給とならないように・・・。
医師への説明や情報提供、その他の書類の作成もうつ病だけの場合より丁寧にしっかり行い、障害年金が認められるように請求すべきです。
岡田真樹
みんなのねんきん社労士法人代表