ここだけの話、今回はこんな話です
弊社では障害年金の相談を受けて要件に該当していると判断した場合は、その申請を勧めるのですが、なぜか躊躇される場合があります。
今回はこれまで受けた実際の相談から、「障害年金を受給することがデメリットになる」という7つの誤解をご紹介します。
後編では7つのうちの4つを取り上げます。
ここだけの話、何が問題なのか
障害者にとって心強いはずの障害年金ですが、「障害年金ってデメリットがあるでしょう・・・」という誤解をされている方に出会います。
障害年金を受給することになにかデメリットがあるのでしょうか?
実は、障害年金のマイナスな印象の多くは、誤った情報による勘違い・誤解であることがあります。
私がこれまで実際に遭遇した7つの誤解を列挙すると、以下のとおり。
- 障害年金を受給していることが周囲に知られてしまう
- 運転免許が取り消しになる
- 年金機構から会社に連絡がいく・仕事ができなくなる
- 将来の老後の年金額が減る
- 支給された年金の使い道が決められている(使途が制限される)
- 確定申告が必要になる
- 障害年金の審査として家に審査員が来る(資産が調べられる)
結論、全て誤解です。
前編では7つの誤解のうちの3つを取り上げました。
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障害年金で不利益受ける?7つの誤解を解き明かす 前編
ここだけの話、今回はこんな話です 弊社では障害年金の相談を受けて要件に該当していると判断した場合は、その申請を勧めるのですが、なぜか躊躇される場合があります。 今回はこれまで受けた実際の相談から、「障 ...
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今回は残りの4つの誤解について、障害年金の申請をためらっている方が前向きになるよう解説していこうと思います。
ここだけの話、みんなのねんきんではこう考える
後編は誤解の4〜7について、確認していきましょう。
- 将来の老後の年金額が減る ←今回
- 支給された年金の使い道が決められている(使途が制限される) ←今回
- 確定申告が必要になる ←今回
- 障害年金の審査として家に審査員が来る(資産が調べられる) ←今回
4.将来の老後の年金額が減る
老後の年金額への直接の影響は?
通常、65歳になると、老齢年金の権利が発生します。
このような誤解は65歳になる前から障害年金を受給していると、将来の分を先に受け取ったために減額されてしまうというものです。
未だに多くの人が「自分が若いときに積み立てた年金を将来受け取る」と勘違いしています。
だから、このような誤解が生じるのでしょう。
これは、老齢年金の年金額がどのように決定されているかの解説が必要です。
簡単に説明すると、国民年金制度から支給される老齢基礎年金は、20歳~60歳の40年間、自身で保険料を納めた期間や免除を受けた期間に応じて年金額が計算されます。
40年間の全ての期間保険料を納めると、満額の老齢基礎年金を受け取ることができます。
一方、
老齢厚生年金は、厚生年金に加入していた時の報酬額や加入期間等に応じて年金額が計算されます。
両年金の詳しい仕組みは日本年金機構のウェブサイトに出ています。
-
老齢年金(受給要件・支給開始時期・年金額)|日本年金機構
続きを見る
このように、
老後の年金は、自身が現役時代に掛けてきた保険料に応じて年金額が決まるだけで、自身の保険料が個別にどこかに積み上がっていて、それを取り崩すという仕組みでありません。
今の年金受給者のために今の現役世代から集めた保険料をそのまま年金支給に回します。
これは障害年金も考え方は同じであり、また、老後の年金と障害年金は別々の仕組みです。
したがって、
老齢基礎年金、老齢厚生年金のどちらも、「自身が障害年金を受給した期間分を老齢年金から減らす」ということはなく、将来の老後の年金は減りません。
免除を受けると老後の年金は減る?
障害年金を受け取ると、将来の老後の年金が減るのではないか?
実は保険料の免除との関係では、ある意味で間違いではありません。
というのも、
国民年金制度からの障害基礎年金を受給すると、国民年金の保険料が免除となります(会社で働いた場合の厚生年金の保険料は免除にはなりません)。
本人の希望に関係なく、法律上当然に免除(法定免除)となる仕組みです(ただし市区町村役場へ届出が必要です)。
そして、
法定免除を受けると、保険料を納付しなくてもよいのですが、その期間は2分の1ヶ月として老齢基礎年金に反映されます。
逆に言えば、
法定免除の期間は年金額が半額になってしまうわけです。
とすれば、
障害年金を受給することで保険料免除を受けられるようになり、そのことで間接的に老後の年金に影響が及ぶと言えます。
ただし、
保険料を免除された期間は後から追納できます(10年以内の免除期間に対して)。
将来、老齢基礎年金を受け取る可能性があるなら、追納しておけば、保険料免除による減額は免れます。
障害年金と老後の年金はどちらかしか受け取れない?
障害年金を受け取りながら、老齢年金の権利が生じたらどうなるでしょうか?
両方受け取れるのでしょうか?
64歳まではどちらかを選ぶことになります。
つまり、両方は受け取れません。
ところが、65歳以降は障害者にとっても有利になるような選択ができたり、組み合わせて2つ以上の年金を受け取ることができます。
例えば、老齢基礎年金と障害基礎年金の権利があるとき、老齢基礎年金は未納や免除があるため年金額が満額でなくとも、障害基礎年金を選択すれば、老齢基礎年金の満額の年金額になります。
また、現役時代に厚生年金に入っていたことがあれば、障害基礎年金と老齢厚生年金を同時に受け取れます。
つまり、
障害年金の権利があることは、将来の年金を考えた時にメリットと言えます。
障害年金と他の年金の組み合わせについては以下の図をご覧ください。
弊社ではこのような相談時には、年金制度の説明をできるだけわかりやすく説明するよう心がけています。
老齢年金と障害年金の権利発生が別になっていること、国民年金の保険料には免除制度があることなど(わかりやすい説明は大変ですが・・・)。
勘違いや誤解を解消するためには、専門家自身の高い説明能力が必要と言えます。
ここがポイント
障害年金を受給しても将来の年金額に直接の影響は無いが、障害年金受給による免除の期間が長くなれば、老後の年金が減額する間接的な影響がある。65歳になると障害者が不利を受けない年金の組み合わせが可能となる
5.支給された年金の使い道が決められている(使途が制限される)
と言われることがあります。
公的機関から支給されたお金なので、それに関わることにしか、使えないというイメージがあるのかもしれません。
これも誤解です。
ここで、年金制度が何のために存在するか確認すると、
老齢、障害又は死亡によって国民生活の安定がそこなわれることを国民の共同連帯によって防止し、もつて健全な国民生活の維持及び向上に寄与することを目的とする。
(国民年金法 第1条)
労働者の老齢、障害又は死亡について保険給付を行い、労働者及びその遺族の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的とする。
(厚生年金保険法 第1条)
このように法律には、「老齢、障害又は死亡」時に保障するとありますが、支給された年金の使用方法は定められていません。
国民や労働者の「国民生活の維持及び向上」「生活の安定」につながりさえすれば良いので使途の制限は無いのです。
私自身も障害年金を受給していますが、こういった場合、私自身の話をすると、大抵納得してもらえます。
ここがポイント
支給を受けた障害年金の使途は制限されない
6.確定申告が必要になる
こういった相談も寄せられます。
法律によって支給されるものですから、税務申告が必要ではと思ってしまうようです。
確定申告の目的は、1年間の所得に対する所得税を正しく計算して申告するためです。
そこで、問題になるのが、障害年金は、税金が課せられる「所得」かどうかです。
法律上どうなっているか確認してみましょう。
租税その他の公課は、給付として支給を受けた金銭を標準として、課することができない。ただし、老齢基礎年金及び付加年金については、この限りでない。
(国民年金法 第25条、厚生年金保険法も第41条で同様の規定あり)
このように、法律にはしっかり年金に対して「租税を課することができない」と明記されています。
つまり、
障害年金には、税金がかかりませんから、障害年金について確定申告の必要はありません。
ただし、
障害年金以外の所得がある場合、確定申告が必要になることがあります。
例えば、所得税は自身が障害者であることを申告すると控除を受けられるので節税につながります。
このように、
障害年金は税金の面でも優遇されています。
ここがポイント
障害年金のみを受給しているのであれば、そもそも課税されないので確定申告は不要である
7.障害年金の審査として家に審査員が来る(資産が調べられる)
これは障害年金の審査に関する誤解です。
たしかに、
障害年金の審査がどのように行われるかは外からはわかりにくい所です。
わかりにくい所ほど、勘違いや誤解が生じやすいと言えます。
ここで、
障害年金には、「認定基準」が定められています。
その中に「認定の方法」が明記されていますので確認してみましょう(出典:「国民年金・厚生年金保険 障害認定基準」)。
障害の程度の認定は、診断書及び X 線フィルム等添付資料により行う。
まずは書類審査を行う旨書かれています。
誤解を招きかねないのはこの続きです。
ただし、提出された診断書等のみでは認定が困難な場合又は傷病名と現症あるいは日常生活状況等との間に医学的知識を超えた不一致の点があり整合性を欠く場合には、再診断を求め又は療養の経過、日常生活状況等の調査、検診、その他所要の調査等を実施するなどして、具体的かつ客観的な情報を収集した上で、認定を行う。
ここに「日常生活状況等の調査」とありますが、この点で家に審査員が来るのでは?と思ってしまいます。
結論として、家にまで審査の担当者が来ることはありません。
私のこれまでの数百件の手続き代行経験でも、そのような実例がありません。
ここで、
繰り返しになりますが、障害年金の審査はあくまで書類上の審査です。
そして、
提出した書類に不備(上の引用の「診断書のみでは認定が困難な場合」「不一致の点があり整合性を欠く場合」)があった場合、より詳しく調査して認定するとありますが、具体的には請求手続した本人または代理人に対して「不備があるから訂正せよ」「不備があるから追加で資料を提出せよ」と通知がきます。
ここでも書類のやり取りが続くだけで、担当者が家まで押しかけて来ることはありません。
最後に、
これらの書類のやり取りでも不備を改められない場合は、障害年金が認定されないだけで終わります。
認定できないからといって担当者がやってくることもありません(年金機構の職員さんもそこまでヒマではありません)。
もちろん資産が調べられるということもありません。
このような誤解に対しては、実情を丁寧に説明し、”問題なく書類が揃えられれば、そのようなことはあり得えません”とお話ししています。
ここがポイント
障害年金の審査は書類のみであり、審査の担当者が家まで来ることはない
ここだけの話、今回のまとめです
今回は、障害年金の申請をためらう7つの誤解のうち残りの4つを解説しました。
ポイントは以下のとおり。
-
障害年金を受給しても将来の年金額に直接の影響は無いが、障害年金受給による免除の期間が長くなれば、老後の年金が減額する間接的な影響がある。65歳になると障害者が不利を受けない年金の組み合わせが可能となる
- 支給を受けた障害年金の使途は制限されない
-
障害年金のみを受給しているのであれば、そもそも課税されないので確定申告は不要である
-
障害年金の審査は書類のみであり、審査の担当者が家まで来ることはない
前・後編にわけて、これまで私が経験した7つの誤解について解説してきました。
このように解説してみると、法律や障害認定基準など、専門的な知識や手続き実務の経験が必要とされることがわかります。
一般の方がこれらの知識や実務経験を積んでいるわけではないので誤解されることも当然だと思います。
これら障害年金制度と一般の方の認識のギャップをどう埋められるか、そこに専門家としての存在価値があると思います。
今後も相談において、わかりやすい説明を心掛け、障害年金の申請をためらう人がいなくなるよう、改めて決意した次第です。
岡田真樹
みんなのねんきん社労士法人代表