ここだけの話、今回はこんな話です
このようなご相談は少なくありません。
今回のコラムでは、他で断られたものの、当社で手続きを代行した結果、無事に受給が認められた事案をご紹介します。
なぜ他では「無理」と言われたのでしょうか?
障害年金の手続きは、個人個人の事情に対応することが重要。
法律や手続きの知識はもちろんですが、それだけでは個人個人の事情に対応していくことは難しい。
専門家によって、もらえるかもらえないかの見解が違うことは、障害年金に対する知識以外のことも関係していると思います。
今回は、他で断られた障害年金手続きの相談事案から手続き代行業務に対する私の思うところをまとめてみます。
ここだけの話、こんな症状・こんな事例です
「障害年金は無理」と言われた真相とは・・
先日のことです。
「うつ病と診断されているのですが、他で障害年金は無理と言われました」
LINEでご相談が寄せられました。
このような状況でまず考えるのは、「保険料納付要件」です。
保険料納付要件とは
初めて医師の診断を受けたタイミングで直近1年間に未納期間が無いこと、または、これまでの年金加入歴における未納期間が全体の3分の1未満であるという障害年金をもらうための要件の1つです
つまり、保険料をきちんと納付していなければ、どんなに重たい症状であっても障害年金を請求することができません。
したがって、未納期間が一定以上あるため、「無理」と言われたのでは?と考えました。
ところが、お話を伺ってみると保険料納付要件に問題はありません。
さらに状況を伺ってみると、医師が患者との関係性を重視し、専門家などの第三者が間に入ることを嫌がっているとのことでした。
確かに医師がそのようなスタンスの場合、我々専門家が医師と直接やり取りができず、手続き代行業務がやりにくくなる可能性があります。
しかし、当社の場合はそれだけで、受給が「無理」とは判断しません。
また、相談者は「就労している」という状況も判明。
ハッキリしたことはわかりませんが、他で断られた真相は医師のスタンス・相談者が就労している点にあったようです。
ここだけの話、何が問題なのか
障害年金を請求する際には医師の診断書が必要です。
その診断書が法で定められた障害状態の証明となるからです。
具体的には、うつ病などの精神疾患では、医師に精神の障害用の診断書を作成してもらいます。
この診断書には、就労状況を記入する欄があります。
就労しているとそれだけで障害年金はもらえないのでしょうか?
これまでの障害年金の審査で、就労していることがどのように影響するか、過去の事例をみてもその判別は難しいです。
実際に、就労を理由に障害状態が軽いと判断された事例は、確かにあります。
この点、「就労していると障害年金が受給できない」との情報は、インターネットでも見かけます。
もしかしたら、障害年金の実務に詳しくないまま、「就労している」事実のみで「無理」と判断しているのかもしれません。
また、
当社で手続代行を行う場合、医師に診断書を依頼する時は、当社から医師に対して日常生活状況などの情報提供を行います。
しかし、今回のケースでは、医師が第三者が間に入ることを嫌がっています。
障害年金手続き代行において、我々専門家から医師に対して情報提供が充分できないことは業務を遂行するうえで支障が生じます。
まとめると
- 第三者から直接医師にコンタクトが取れない状況下にあり、
- 相談者が就労していることをもって障害年金受給に支障が生じるか
この2点が問題となるのです。
ここだけの話、みんなのねんきんではこう対処した!
就労していた真相はこうだった
このような状況のなかで当社がどう対応をしたかをまとめてみましょう。
まずは、就労状況について、さらに詳しく確認しました。
というのも、単に就労していることをもって年金が受給できないわけではないからです。
日本年金機構が公表している「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」には、就労状況がどのように判断されるか詳しく記されています。
労働に従事していることをもって、直ちに日常生活能力が向上したものと捉えず、現に労働に従事している者については、その療養状況を考慮するとともに、仕事の種類、内容、就労状況、仕事場で受けている援助の内容、他の従業員との意思疎通の状況などを十分確認したうえで日常生活能力を判断する。
(出典:日本年金機構「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」)
つまり、就労の事実のみを持って、障害年金が認められるかを第三者が勝手に判断してはいけないのです。
ガイドラインで明示されているように、相談者の状況を詳しく確認しなければなりません。
そこで、更に詳しくカウンセリングを進めると、就労している理由はうつ病の症状自体が理由となっていることがわかりました。
具体的には、
- うつ病の症状である”不安感”や”焦燥感”により無理して就労していた
- 周囲からの病気の偏見を気にして、就労について相談できずにいた
というのが実態だったのです。
そこで、就労を続けて良いものか否か、医師の見解を確認するよう相談者ご本人に伝えました。
相談者は医師に症状を伝えると、就労を控えるよう指示が出たとのこと。
相談者ご本人も、その症状から無理して就労していたことを自覚できました。
医師から家族にも説明してもらい、病気への理解と協力が得られるようになりました。
こうして、就労していることが障害年金受給に不利にならないように証拠を固め、問題点をクリアーしました。
医師へは直接コンタクトを取れない!どうする?
次の問題は、医師に直接コンタクトが取れない点です。
結果として、今回の事案では、当社から直接医師に情報提供を行うことはしませんでした。
というのも、その医師が患者ご本人に寄り添っていただける方だったからです。
ただし、事前に診断書の内容についてご本人に説明を行いました。
具体的には、医師が確認したい診断書の項目を事前に本人が理解しておくことで、医師とのやり取りがスムーズにいくようにアドバイスしました。
相談者ご本人も、医師からどのようなことを確認されるのか、不安になっていたからです。
診断書を見てもらいながら当社から具体的に説明したことで、医師の質問にしっかり答えることができたそうです。
このように必ずしも専門家である私たちが直接医師に情報提供をする必要は無いのです。
通り一遍の対応ではなく、状況に応じて最善の方法を考えるのが本当の専門家ではないでしょうか。
そして最後に、障害年金請求に必要な提出書類の作成・確認は、当社で行いました。
書類提出目前で更なる問題発生!
提出目前で、一つ問題がありました。
診断書の内容を確認すると、記入漏れがあったのです。
記入漏れの内容としては、軽微なものでしたが、このまま提出すると書類の不備による返戻等で審査に時間がかかってしまう可能性があります。
相談者ご本人からは、医師が大変お忙しい中で診断書を作成いただいたので、追記の依頼は難しいとのこと。
だからといって、当社から医師に直接コンタクトを取るのは難しい。
上で説明したとおり、医師が第三者が間に入ることを嫌がっているからです。
社会保険労務士だからといって、無理にでも医師に対して依頼をすれば、今後の医師と患者ご本人の関係を壊しかねません。
そこで、医師への追記依頼は行わずに、追加の資料で補うことにしました。
幸い、その他の資料の中に、記入漏れの内容を証明できるものがありましたので、それを添付資料として提出しました。
結果として提出書類の記載不備による返戻もなく、二か月半後には、年金証書が届きました。
相談者から大変喜ばれたことは私にとっても本当に嬉しいことでした。
ここだけの話、今回のまとめです
「他で障害年金は無理と言われた」
当社ではそのようなご相談であっても、何か方法は無いかと相談者に寄り添ってカウンセリングを進めています。
障害年金の業務は、法律や手続きの知識を常に勉強していくことはもちろんですが、個人個人の事情にいかに対応できるかの能力が問われます。
今回のケースでは、「就労」の状況をしっかり確認することの他に、医師と患者のパーソナルな事情を理解することが重要でした。
医師と患者は今後も治療を続けていく関係になります。
障害年金のためにその関係を壊すわけにはいきません。
これらの事情を汲みながらどのように対応していくか・・・難しかったですが、今回はうまく対応できたと感じています。
今回の事例でポイントになったのは以下の点です。
- 他で障害年金受給は「無理」と言われてもあきらめない
- 「就労」の事実だけで、障害年金受給を第三者が勝手に判断すべきでない
- 専門家であれば、個人個人の事情に対応した最善の方法を考えるべき
- 今後も続く医師と患者の関係に配慮して手続き代行業務を行うべき
今回のようなご相談を受けるたびに感じること。
それは、私たち専門家は業務への姿勢や方針はそれぞれではありますが、障害年金の受給が難しいと安易に判断するべきではないということです。
障害年金で助けて欲しいと相談される方の事情をよく考える必要があります。
藁にもすがる気持ちのはずですから。
障害年金手続きの難しさは、状況が個人個人で違うことにあります。
年金をもらうための三要件(初診日要件、保険料納付要件、障害認定日要件)の証明方法は、個人個人違います。
障害年金専門家の存在意義は、その証明が難しいケースを何とかするために、あります。
そのためには、法律や手続きの知識だけでなく、ケースに応じた対応力も磨いていかないといけないと自戒を込めて思いました。
岡田真樹
みんなのねんきん社労士法人代表