ここだけの話、今回はこんな話です
特別障害給付金制度(以下、「給付金」)をご存知ですか?
この給付金は公的年金制度の障害年金を受け取れない人向けの障害者に対する給付金です。
年金制度の歴史のなかで、障害年金を受け取れない方への公平の観点から設けられた制度ですが、誤解されている方が結構多いという印象を持ちます。
今回はこの「特別障害給付金制度」について、制度の仕組みとよくある誤解について解説します。
ここだけの話、特別障害給付金制度とは?
障害年金が受け取れない人がもらえる?
先日のこと。
みんなのねんきんにこのような相談が寄せられました
久しぶりに聞いた「特別障害給付金」という言葉に、最初とまどってしまったことは言うまでもありません。
正直言って、最近はこの給付金を扱うことはほとんど無かったからです。
では、特別障害給付金とはどういったものか?
そもそも、障害年金の説明からさせてください。
障害年金は公的年金制度から支給される障害者に対する所得保障制度で、以下の3つの要件を満たしていると受け取ることができます。
障害年金受け取りのための3要件
- 初診日要件:障害の原因となった傷病について初めて医者に掛かった日(初診日)に国民年金または厚生年金保険に加入していること
- 保険料納付要件:初診日の前日時点で、年金保険料の未納が少ないこと
- 障害認定日要件:障害認定日(初診日から1年6カ月経った日)に法律で定められた障害状態であること
以上の3つ全てを満たせなければ障害年金は受け取れません。
ところが、
この要件に当てはまらい場合、一定の対象者に、同じ国の年金制度から障害を理由に支給されるのがこの給付金なのです。
特別障害給付金制度ができた背景とは
特別障害給付金制度ができた背景には、国民年金制度の変遷と、その過程で生じた課題が関係しています。
国民年金制度は、国民全員が加入対象となることを原則としています。
が、制度の開始当初は、学生やサラリーマン家庭の主婦など国民年金に強制的に加入しない(任意で加入する)人たちがいました。
特に昭和61年3月以前は、加入が任意であった期間が長く、国民年金に加入していなかった期間が長い人も少なくありませんでした。
これらの加入していない期間中に障害を負った場合、上の3要件のうちの最初の要件を満たせず(年金制度に加入していないため)、年金を受給できないという状況が生じました。
この点、
学生を強制加入させなかった国の制度に問題があるとして、国に損害賠償を求めて最高裁まで争われた裁判例もあります。
-
学生無年金訴訟|wikipedia
ja.wikipedia.org
このような状況を踏まえて、創設されたのが「特別障害給付金制度」です。
いわば、制度の狭間で救済を受けられない障害者に対する年金とは別の救済制度と言えます。
ここだけの話、もっと詳しく!特別障害給付金制度とは
誰が対象者?
1 平成3年3月以前に国民年金の任意加入対象であった学生
学生は、次の(1)または(2)の昼間部在学していた学生(定時制、夜間部、通信を除く。)になります。
- (1)大学(大学院)、短大、高等学校および高等専門学校
- (2)昭和61年4月から平成3年3月までは、上記(1)に加え、専修学校及び一部の各種学校
2 昭和61年3月以前に国民年金の任意加入対象であった被用者等(サラリーマン・公務員)の配偶者
被用者等とは、被用者年金制度(厚生年金保険、共済組合等)の加入者、国会議員、地方議会議員です。
そして、
上の1・2の状況下で国民年金に任意加入できるのにしていなかった期間(任意加入期間)に初診日があることが条件になります。
初診日とは
障害の原因となった傷病について初めて医者に掛かった日のこと。
そして、障害の重さが国民年金法による障害等級1級または2級に該当していることが必要になります。
障害等級1級または2級の基準は、国民年金から支給される障害基礎年金と同じ基準で、1級の方が重い状態です。
いくらもらえる?
- 1級 基本月額55,350円(2級の1.25倍)
- 2級 基本月額44,280円
(いずれも令和6年度の金額)
特別障害給付金の月額は、前年の消費者物価指数の上昇下降に合わせて毎年度自動的に見直しがあります。
老齢年金、遺族年金、労災補償等を受給されている場合には、その受給額分を差し引いた額が支給されます(老齢年金等の額が特別障害給付金の額を上回る場合は、特別障害給付金は支給されません)。
稼いでいると止められる?
この給付金は、自身は保険料を納めずに受け取れる福祉的な制度となっているため、所得による制限があります。
これは、二十歳前に初診日がある「二十歳前傷病の障害基礎年金」と同じです。
二十歳前傷病の障害基礎年金とは
原則20歳から加入する公的年金加入前から障害がある方に対して支給する国民年金制度からの障害年金。
自身は保険料を納めずに受け取れるため福祉的な制度であるため、一定以上の所得があると年金が全部または一部停止となる。
受給者の前年の所得が4,721,000円を超える場合は、給付金の全額が支給停止とます。
3,704,000円を超える場合は2分の1が支給停止となります。
支給停止となる期間は、10月分から翌年9月分までです。
どこで手続きする?
この給付金の請求の窓口は、住所地の市区役所・町村役場です。
手続きは、65歳に達する日の前日(65歳誕生日前々日)までに行わないといけません。
ここだけの話、誤解が生じる理由は?
特に障害をお持ちであれば、このような不安を常に抱えているため、障害を理由とした制度が使えるならば、その期待は大きくなります。
そのような期待を持って、制度を説明した政府のリーフレットを見ると、誤解してしまうのです。
リーフレットには「障害基礎年金等を受給していない障害者の方」が対象であるとあります。
これだけでは”自分ももらえるかも?”と勘違いしてしまうはず。
その理由として、「制度の難解さ」があります。
特別障害給付金が創設された背景事情を理解しないと、なぜこのような給付金が受け取れるかがわかりません。
ちなみに、特別障害給付金は、平成17年4月より施行されています。
私の手元に、当時のリーフレットがありますので見てみましょう。
もう少し図解などを使って解説できないものでしょうか。
文字ばかりの石板のようで頭が痛くなります。
ましてや障害をお持ちの方によっては、判断力が低下している場合もありますのですぐには理解できないでしょう。
こういった周知とは言えないアナウンスが誤解を生む原因となっていると考えます。
もっと、任意加入の時代に加入していなかった方が対象であることを強調すべき。
もちろん、年金の専門家である我々も、わかりやすい説明ができるよう心掛けないといけません。
ここだけの話、特別障害給付金をどれだけの人がもらってる?
令和の今現在で請求できるのか
この給付金は平成17年4月から施行された仕組みで今現在も要件に合うなら受け取ることが可能です。
ただ、
対象となる方の年齢を考えてみると、平成3年3月以前に学生で当時20歳だった方は、現在(令和6年時点)で53歳、昭和61年3月以前に20歳だった方は、58歳になります。
このコラム冒頭で相談された方の年齢を確認すると40代の方でした。
40代ですと、平成3年3月以前で20歳未満ですから、この給付金の対象とはなりません。
初診日が決められた時期までにないといけないですので、対象となるためには、狭き門と言えます。
では、一体、どの程度の人数が受給されているのでしょうか?
制度が始まった平成17年4月から令和6年8月末までの累計で支給件数8,080件、不支給決定は1,467件(出典:日本年金機構ウェブサイト)。
実は毎月発表がされているので、直近の1年間の支給状況を私自身で集計してみました。
直近1年間で支給件数は、少しずつ減少しています(9月8,293件 → 翌年8月8,080件 213件減)。
それもそのはず。受給者が高齢になり、老齢年金を選択した結果こちらの給付金が支給されない方や、お亡くなりになっているためです。
逆に不支給件数は、直近1年間で1件増加のみ。
これは、給付金の請求自体が非常に少なくなっているためであると考えます。
ここだけの話、今回のまとめです
今回は、特別障害給付金制度について解説しました。
ポイントは以下のとおり。
- 特別障害給付金は国民年金制度に任意で加入していなかった間に初診日がある障害者に特別に支給される給付金である
- 平成3年3月以前に国民年金の任意加入対象であった学生、昭和61年3月以前に国民年金の任意加入対象であったサラリーマン・公務員の配偶者が対象者
- 誤解の原因は年金制度の複雑さ・国の周知に原因がありそう
- 現在は不支給決定が増えていないことから新規に受給開始する人はほとんどいないと思われる
障害年金が支給される国の年金は、これまで多くの改正が行われてきました。
そのため、制度が複雑になり、そこから誤解を生じやすくなっています。
コラム冒頭の相談者は、障害年金の要件を満たせず、藁をもすがる思いで特別障害給付金制度に該当しないかという相談でした。
症状や保険料の納付状況を伺い、公的年金制度から障害を理由に保障が受けられないことを説明することは、大変つらいです。
その際は、私も相談者に寄り添って、年金制度以外の福祉制度などの利用ができないかお話します。
福祉制度では似た名称の「特別障害者手当」があります。
保険料要件はありませんが、重い障害の方が対象となっています。
特別障害給付金制度は当時の年金制度に加入できなかった制度自体に問題があったわけですが、現在においても保険料を納めていないために障害年金を受けられない方が少なくありません。
結局、保険料を納めていなければ保険給付を受けられないのです。
保険料の未納が原因で障害年金が申請できないことがゼロになるまで、私も情報発信を続けていこうと改めて感じました。
岡田真樹
みんなのねんきん社労士法人代表