今回のコラムは年金実務者向けの内容です。
ここだけの話、今回はこんな話です
障害年金相談において、精神疾患が多くなっていることは、すでに周知の事実だと思います。
精神疾患には、うつ病だけでなく、他にも多くの病気があります。その中に「統合失調症、統合失調感情障害」と呼ばれるものもあります。
精神疾患のほとんどは、外から見えない病気ですから周囲の人にわかってもらえないことが多いです。
しかし、「統合失調症、統合失調感情障害」は、周囲の人もわかることがあります。この病気になると独り言が多くなったり、話が支離滅裂で会話がおかしくなったりすることがあります。周囲の人も様子がおかしいと感じ、病気を疑ってくれるようになります。
障害年金の相談においても「うつ病」の次に「統合失調症、統合失調感情障害」が増えています。自分で障害年金を申請してみたが不支給となった…の相談も多くあります。
申請時の書類を確認させていただき分析するのですが、統合失調症の方の場合、書類の内容がアベコベになっていて ??? となることがあります。
医師の書いた受診状況等証明者や診断書と、自分で書いた病歴・就労状況等申立書、それぞれで時系列がおかしかったり、病気の様子が違っていたり…。
今回は、統合失調症、統合失調感情障害の、書類内容のトラブルを見てみます。
統合失調症、統合失調感情障害とは
脳の様々な働きをまとめることが難しくなるために、幻覚や妄想などの症状が起こる病気です。[厚生労働省みんなのメンタルヘルスより]
障害年金に必要な書類について
障害年金請求に必要な書類は、主なもので、初診日を証明する「受診状況等証明書」、障害状態の程度を証明する「診断書」、発病から現在までの経緯を示す「病歴・就労状況等申立書」になります。
ここだけの話、こんな症状・こんな事例です
なぜ書類がアベコベになってしまうのか?
統合失調症、統合失調感情障害は、以前精神分裂病とも呼ばれていました。
統合失調症の方から通院歴を確認してみると、通院していない期間があり、治療が継続的に行われていない期間があります。
その通院していない期間の状況を相談者に聞くと「薬を飲まなくても平気だった」や「元気だった」「治っていた」と・・・。
統合失調症、統合失調感情障害の症状は、以下のようになります。
- 陽性症状 (幻覚・妄想など)
- 陰性症状 (感覚鈍麻・快感喪失・非社交性など)
- 解体症状 (思考障害・奇異な行動)
- 認知症状 (注意力・処理速度・社会的相互作用の理解などの低下)
(出典:MSDマニュアル)
考えをまとめたりすることが困難になり、幻覚・幻聴により周囲の人から否定されるということが多なります。
本人も人の意見を聞かなかったり、状況を理解できなくなったりしてしまいます。
これらの症状から統合失調症・統合失調感情障害の特徴として「病識欠如」というものがあります。統合失調症の患者のなんと97%が病識欠如と認められています。(WHOの調査)
これは、自身が病気であることを自覚できない状態になってしまうのです。そうなると、治療への理解がなく、通院を中断したり、怠薬したりしてしまうのです。
医師の認識と請求者の認識が違いますから、それぞれが作成する書類の内容も違ってきてしまいアベコベの状態になってしまうのです。
ここだけの話、何が問題なのか
障害年金が受給できるかどうかは、日本年金機構などの保険者での審査で決まります。
しかも、提出した書類のみで審査が行われます。
書類がアベコベだと、審査する側も書類の信憑性を疑うようになってしまいます。
提出後も改めて書類を整理するよう送り返されたり、別の書類を追加で求められたりすることもあります。
審査の時間も通常3カ月程度のものが半年以上になってしまい時間がかかってしまうこともあります。
また、障害の程度は、総合的に判断されますので、思わぬ結果(等級不該当)の原因になってしまうことも…再審査請求の裁決例など過去の審査をみてみると、信憑性が疑われた書類では、たとえ医師が書いた書類でも「首肯できない」(うなずくことはできない)となっている事例が見られます。
ここだけの話、こう対応する
まず、統合失調症、統合失調感情障害の病気の特徴をしっかり理解しておかなくてはなりません。
相談や打ち合わせの時には、むやみに否定することなく、傾聴を心がけます。本人は、関係ないと思っているお話でも、その中から重要な情報を得られることも多々あります。
また、本人は、もちろん、家族やこれまで通院した医療機関からの情報を聞き出します。家族の日記などは、とても有効です。
医師に「診断書」を依頼する際は、事実に基づいた情報を提供できるように事前の準備が重要になってきます。
医師が事実に基づいた診断書を作成できるように情報提供するのも障害年金代理人の仕事です。
「病歴・就労状況等申立書」では、本人が作成すると、辛い経験をたくさんアピールしがちです。
本来、発病からの経過を書かなくてはならないのですが、上手くまとめられなかったり、主観が強くなりすぎてしまったり、とても読み辛いものになってしまいます。
そこで「病歴・就労状況等申立書」の作成も代理人が行います。
医師の作成した書類や家族などから集めた情報から客観的な視点で作成していきます。病気のために通院ができなかった期間を「元気だった」と請求者の感じたものではなく、医師や家族などの見解を反映して書いていきます。
そうして必要な書類を揃えていきますが、揃った後も注意が必要です。
障害年金を請求する前に、提出書類のチェックを行い、矛盾はないか、整合性は取れているか、確認しなければなりません。
提出してしまうと訂正することはできません。医師の診断書にも誤りがあるときもあります。事実と違う内容でしたら、医師に訂正してもらわなければなりません。
書類が揃った時点で手続きが終わるわけではありません。
書類の内容もしっかり確認することが重要です。審査する側の視点で、どのように捉えられるか…少しでも事実と違う内容になっているのなら、書類は、訂正するべきです。
ここだけの話、今回のまとめです
今回は、統合失調症、統合失調感情障害の方の書類に関するトラブルをまとめてみました。
ポイントは以下のとおり。
- 統合失調症、統合失調感情障害の特徴に病識欠如(病気を認識できない)がある
- そのため、医師の作成した書類と本人が作成した書類の内容がアベコベになる
- 本人だけでなく、関わった人たちから情報を収集し整理する
- 医師に情報提供できるように準備する
- 提出前に書類全てに整合性があるか確認する
障害年金は、通常の請求で認められなくても審査請求、再審査請求と不服申立ができます。しかし、改めて別の機関での審査になります。最初の書類がアベコベだとそれが最後まで影響して、不服申立でも認められなかった…。
請求した翌月分から障害年金が支給されたり、有効期限がある書類もあったりしますので、揃った時点で早く提出したい気持ちはよくわかります。しかし、内容がおかしければ、障害年金が支給されないという最悪の事態になってしまいます。
情報収集と整理をしっかり行い事実が反映された書類にすること、それらの書類におかしいところはないか請求前にきちんと確認すること、が障害年金受給の可能性をより高めることになります。
岡田真樹
みんなのねんきん社労士法人代表