今回のコラムは障害年金初心者向けの内容です。
ここだけの話、今回はこんな話です
2020(令和2)年9月10日の社会保障審議会年金事業管理部会において、「障害年金業務統計(2019(令和元)年度決定分)」が公表されました。
障害年金の新規裁定と再認定に関する決定件数をまとめたもので、その割合等の統計結果が細かく記されています。
また同時に「障害年金の業務統計等について」として集計データを図や表で表したものも公表されました。
今回はこれらの公表資料についてまとめていきます。
ここだけの話、こんな症状・こんな事例です
統計公表の背景事情
2015(平成27)年に障害年金の申請に対する不支給率が都道府県間で最大6倍近くものバラつきがあることが問題になりました。
その後、2017(平成29)年に都道府県ごとに認定医が審査する仕組みを変更し、日本年金機構内に障害年金センターを置き、審査を一元化することになりました。
一元化後の判定の中で、これまで障害基礎年金を受給していた約1,000人に対し支給打ち切りの予告をしていたことが2018(平成30)年にわかり、更なる問題となりました。
これらの問題があったため、障害年金業務における申請数や決定数を明らかにするよう求められ、今回の統計発表につながったわけです。
「障害年金業務統計」で注目したもの
「障害年金業務統計(2019(令和元)年度決定分)」の中で私が注目したのは、診断書種類別件数です。
障害年金は、障害の種類に応じて、
- 「精神障害・知的障害」
- 「呼吸器疾患」
- 「循環器疾患」
- 「腎疾患・肝疾患・糖尿病」
- 「血液・造血器・その他」
- 「眼」
- 「聴覚・鼻腔機能・平衡感覚・そしゃく・嚥下・言語機能」
- 「肢体」
と8種類の診断書が用意されています。
また、これらは3つに分類されています。
- 「精神障害・知的障害」
- 「内部障害」
- 「外部障害」
内部障害はさらに、以下の分類となっており、
- 「呼吸器疾患」
- 「循環器疾患」
- 「腎疾患・肝疾患・糖尿病」
- 「血液・造血器・その他」
外部障害もさらに、以下の分類となっています。
- 「眼」
- 「聴覚・鼻腔機能・平衡感覚・そしゃく・嚥下・言語機能」
- 「肢体」
これらを前提に、早速、統計結果を見てみましょう。
最初は国民年金制度の障害基礎年金の分です。
次に、厚生年金制度からの障害厚生年金の分です。
これらを見ると、精神障害・知的障害では
障害基礎 87.7%、障害厚生 90.2%
外部障害で、
障害基礎 83.1%、障害厚生 93.9%
の割合で年金が決定されています。
一方、内部障害では、
障害基礎 67.3%、障害厚生 87.5%
となっています。
内部障害の方が、障害年金を認められる割合が低くなっていることから、一部報道では、障害の種類によって、審査にバラつきがあるように報じられていました(「障害種別で年金に格差内臓疾患、精神は低い支給」共同通信社 2020年10月3日付け報道 )。
確かに、公表された数字だけをみると、報道にあるように内部疾患だから認められにくいと感じるかもしれません。
ただ、実務の最前線にいる私の感じ方は異なります。
この点、
障害年金では、それぞれの障害状態について「国民年金・厚生年金保険 障害認定基準」(以下認定基準)が定められています。
障害認定基準では、各等級が以下のようになっています。
- 1級:身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のもの
- 2級:身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が、日常生活が著しい制限を受けるか又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの
- 3級:労働が著しい制限を受けるか又は労働に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの
意外に思う方もいるかもしれませんが、障害年金は、障害の種類や傷病名だけで審査が行われているわけではありません。
日常生活や労働の状況によっても等級が判定されることになっています。
さらに「障害認定基準」では、各障害に応じて細かい基準も設定されています。
また、病名によっては、発病しても日常生活や労働への影響が少ないものもあります。
つまり、
その症状から日常生活や労働の影響があるか個々に判断されているため、外からは判断が難しい内部障害において、このような数字になっているのだと思います。
その他に私が注目したのは、障害厚生年金の決定割合について。
障害厚生年金は初めて医者に診てもらったときに、厚生年金加入中の方が受け取れる年金です。
等級が3級や障害手当金(年金はもらえない症状だが、一時金でもらえるもの)もあるので、等級が1・2級の年金しか無い障害基礎年金に比べて保障が充実しています。
その障害厚生年金の方が、決定割合が高くなっている点で、年金制度が労働者を保護しようという趣旨が強く出ているのかもしれません。
「障害年金の業務統計等について」で注目したもの
「障害年金業務統計について」では、「精神の障害に係る等級判定ガイドラインの実施状況について」に注目してみたいと思います。
「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」(以下ガイドライン)が定められた背景は、先に説明したとおり、精神障害及び知的障害の障害基礎年金の認定において、地域によりバラつきがあることが確認されたためです。
そこで、「障害認定基準」に基づき適正に行われるよう改善を図ることを目的にガイドラインを定め、2016(平成28)年9月より運用されてきました。
ガイドラインには、「ガイドラインの実施状況の検証及び見直し等」として
施行後3年を目途に、必要に応じてこのガイドラインに基づく認定の見直し等を検討する。
とあります。
今回の統計の公表の際、ガイドラインの目安もこのまま継続することになりました。
表の横軸「日常生活の程度(5段階評価)」は、診断書の記載項目である「日常生活能力の程度」の5段階評価を指しています。
縦軸の「日常生活能力の判定の平均(4段階評価の平均)」は、診断書の記載項目である「日常生活能力の判定」の7項目4段階評価について、程度の軽いほうから1~4の数値に置き換え、その平均を算出したものです。
例えば、診断書の「日常生活の程度(5段階評価」が(3)で、「日常生活能力の判定」の7項目4段階評価の平均値が2.71の場合は、ガイドラインの目安によると、「2級または3級」となります。
ガイドラインで定めた目安と実際にされた決定の関係では、92.1%の割合で目安と同一の決定がされていたことが確認できました。
そのため、ガイドラインの目安は、このまま継続することになったようです。
この資料で気になる点として、ガイドラインの目安では、「非該当」であり、障害年金が支給されない目安でも、実際は障害年金が決定されている事例がある点です。
「日常生活能力の判定」の7項目4段階評価の平均値が1.5未満で、「日常生活の程度(5段階評価」が(1)でも4.4%の方が受給決定されています。
これを見ると、ガイドラインでの目安では非該当だとしても、傷病の種類(てんかんなど)、日常生活や就労の状況次第では、障害年金が決定される可能性があることになります。
精神障害・知的障害の障害年金請求では、診断書の「日常生活の程度」や「日常生活能力の判定」でわかるのは、障害等級の「目安」です。
ガイドラインが運用されてから、高い割合でこの「目安」と同じ決定がされていますが、状況によっては、ガイドラインの目安が「非該当」でも障害年金受給の可能性があることがわかります。
相談者のお話をしっかり聴いて、諦めずに申請につなげたいと感じた注目箇所でした。
ここだけの話、今回のまとめです
今回は、公表された「障害年金業務統計」「障害年金の業務統計について」を見て、私が感じたことを書いてみました。
- 内部障害の決定割合が低いが、障害の種類によって審査に差があるわけではない
- 障害厚生年金の方が障害基礎年金に比べて決定割合が高い
- 精神の障害に係る等級判定ガイドラインの目安と実際の年金決定の結果は9割が同一
- ガイドラインの目安が非該当でも年金が決定されている事例がある
これまでは、このような障害年金だけのデータとして、新規裁定の件数や決定割合が公表されることはありませんでした。
今後も障害年金業務統計におけるデータは、各年度集計され、翌年度の秋頃を目途に日本年金機構のホームページで公表していくそうです。
障害年金の決定における審査のバラつきについての報道もあります(「障害年金の支給判定4割で不一致 医師2人の意見異なる」共同通信 2020年10月21日付け報道)。
障害年金の決定に判断が難しいケースでは、1人の医師で判断せず、専門性のある医師から意見を求めるようになったとも聞きますが、どこまで運用されているかまだ、わかりません。
統計からは、「障害認定基準」を重視しての審査が行われていることを感じました。
障害年金請求では、「障害認定基準」の理解を深めていくことが、障害年金の専門家として必要なスキルであると改めて感じ、日々精進あるのみと思った次第です。
出典・参考にした情報源
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Dropbox - 20200910 障害年金業務統計(令和元年度決定分).pdf - Simplify your life
Dropbox - 20200910 障害年金業務統計について.pdf - Simplify your life
岡田真樹
みんなのねんきん社労士法人代表