年金制度はなくなるから納める意味が無い?障害年金をもらえない深刻すぎる誤解とは

【みんなのねんきん】岡田社労士

岡田真樹

みんなのねんきん社労士法人代表

ここだけの話、今回はこんなお話です

日々障害年金のご相談を受けていますが、我々には、どうしても対応できない相談があります。

それは、

モモ
モモ
保険料を納めていなかったから、年金事務所で障害年金の資格がないと言われた

というもの。

障害年金を受け取るための要件のうち、保険料納付の要件を満たせないケースです。

症状は辛いのに、障害年金の資格がないことは、相談を受けていてもすごく心苦しいです。

今回改めて、保険料の納付や免除の手続きの重要性、要件を満たせない場合の他の方法についてまとめてみようと思いました。

ここだけの話、保険料を納めないと・・

障害年金を受け取るのための保険料納付要件とは

障害年金が支給される公的年金(国民年金、厚生年金保険法)は、保険の仕組みを採用しています。

保険ですので、加入者が将来に備え保険料を納めていくことになります。

保険事故(老齢「年をとって働けない」・障害「障害を負って生活できない」・死亡「一家の大黒柱が亡くなって遺族が生活できない」)に該当すると保障されるのですが、そこで、保険料を納付していたかどうかが問題となります。

保険料納付の要件は、老齢年金、障害年金、遺族年金で異なります。

障害年金の保険料納付要件は、以下になります

  • ①初診日の前々月までの年金制度加入期間全体のうち、未納期間が3分の1未満であること
  • ②初診日の前々月までの直近1年間に未納期間がないこと初診日が令和8年4月1日前にあり、65歳未満であること

メモ

ここでいう「未納期間」は自営業や無職など国民年金加入時代に保険料を納めていなかった期間を指します。就職して厚生年金に入っていた期間は未納の問題は生じません。

以上の2つのうち、①か②のどちらかを満たしていないといけません。  

ここで大事なことは、どちらであっても、初診日の前日時点でこの①か②に当てはまっていないといけないということです

例えば、12月10日に医師の診断を受け、その病気やケガがもとで障害が残った場合は、12月9日の時点で①か②であることが必要というわけです。

保険料を後から納めるとどうなる?

では、後から保険料を納めた場合はどうでしょうか?

国民年金の保険料は、納付期限が過ぎていても、「納付対象月の翌月末日」から年後までは納付することができます

すると、遡って保険料を納めたことになりますから、これで保険料納付要件を満たせるようにも思えます。

ですが、これはいけません。

これまで保険料を納めていなかったが、医師の診断を受けた、障害年金に該当しそうだからといって、後から納めたとしても、初診日の前日において未納だった事実は変えられないからです

弊社に寄せられる相談でも、「今から納めれば大丈夫ですか?」と聞かれることがあります。

残念ですが、障害年金の保険料納付要件は、後出しじゃんけんできません。

メモ

もちろん後から保険料を納めれば、納めた分は将来の老後の年金には反映するので納められるなら納めるべきです。

なぜ保険料を納めなかったのでしょう。

ある方はこう話してくれました。

モモ
モモ
将来、年金制度がなくなるから意味がないと思った

過剰な年金不安を煽った情報などを信じてしまったせいです。

公的年金は保険制度ですから、将来の不安を保障するためにあります。

意味がないからと、ほったらかしにしていたら、公的年金から保障を受ける権利を放棄したことになってしまいます。

ここだけの話、納めるのが難しいときは・・

免除・納付猶予を申請すべし

保険料を納めることが難しい時は、免除や猶予の制度があります。

ほったらかしにせずに、しっかりと手続きをとるべきです。

手続きをとると、保険料免除となった期間は、老齢年金をもらうための資格期間に算入されます。

メモ

老齢年金を受け取るためには、納付の期間や免除の期間を合わせて10年以上あることが必要です。

しかも、老齢年金の年金額を計算するときは、免除の期間は最低でも2分の1ヶ月分として評価してもらえます。

さらに障害年金や遺族年金については、免除の期間は保険料を通常通り納めた期間と同じ評価なので、保険料納付要件を満たせるようになります。

メモ

障害年金や遺族年金の年金額を計算する際は、免除の期間は影響ありません。年金をもらえるかどうかの判断材料にされるだけで、年金額が老齢年金のように2分の1になるというようなことはありません。

結論として、保険料の免除はメリットしかないので、保険料を納めるのが難しいなら、免除申請の手続きを行うべきです。

未納にするのがもっともいけません。

具体的な免除・納付猶予制度のご紹介

免除や納付猶予を利用できるケースを紹介していきましょう。

保険料免除制度

こんな時に

経済的な理由により、保険料を納めることができない時

所得が少なく本人・世帯主・配偶者の前年所得(1月から6月までに申請される場合は前々年所得)が一定額以下の方が対象です。

所得の額に応じて免除される額は、全額、4分の3、半額、4分の1となります。

免除の申請は、過去2年(申請月の2年1カ月前の月分)までさかのぼって申請することができます。

矯正施設(刑事施設(刑務所、少年刑務所、拘置所)、少年院、少年鑑別所、婦人補導院をまとめて『矯正施設』といいます。)に収容されている方も対象になります。

住民登録が行われている市・区役所または町村役場に免除等の申請書を提出します。

こんな時に

退職(失業)した時

本人、世帯主または配偶者のいずれかが退職(失業)した場合、退職(失業等)された方が対象となります。

前年の所得をゼロとして審査されますので全額免除されます。

こちらも過去2年(申請月の2年1カ月前の月分)までさかのぼって申請することができます。

こんな時に

新型コロナウイルス感染症の影響により納付が困難な時

令和2年2月以降に、新型コロナウイルス感染症の影響により収入が減少した方が対象です。 所得が相当程度まで下がった場合、令和2年2月以降の所得の状況からみて、所得見込額が国民年金保険料免除基準相当になることも要件です。

免除される期間が上記二つのケースと違いますので、注意が必要。

具体的には、

  • 令和元年度分として「令和2年2月分から令和2年6月分まで」
  • 令和2年度分として「令和2年7月分から令和3年6月分まで」
  • 令和3年度分として「令和3年7月分から令和4年6月分まで」

が免除の期間となります。

こんな時に

生活保護の生活扶助を受ける時

国民年金保険料の法定免除に該当します。生活保護を受け始めた日を含む月の前月の保険料から免除となります。

こんな時に

出産した時

出産予定日または出産日が属する月の前月から4カ月間(以下「産前産後期間」といいます。)の国民年金の保険料が免除されます。多胎妊娠の場合は、出産予定日または出産日が属する月の3カ月前から6カ月間の保険料が免除されます。

メモ

会社に在籍している場合も産休・育休に合わせて厚生年金保険料が免除される仕組みがあります。

保険料納付猶予制度

こんな時に

学生で20歳以上のとき(学生納付特例制度)

学生とは、大学(大学院)、短期大学、高等学校、高等専門学校、特別支援学校、専修学校及び各種学校、一部の海外大学の日本分校に在学する方で夜間・定時制課程や通信課程の方も含まれますので、ほとんどの学生の方が対象となります。

申請が認められると「保険料全額免除期間」という扱いになるので、障害年金の保険料納付要件を満たせる期間になります。

また、老齢年金を受け取るために必要な期間にも算入されますが、年金額に反映するためには、後で納付(追納)が必要です。

こんな時に

50歳未満で経済的な理由により保険料を納めることができない時

免除制度と同じ理由で、納付が難しい時に納付猶予制度も利用できます。

免除制度との違いは、利用のハードルが低いことです。

所得の審査対象者が本人と配偶者のみであり、世帯主まで審査される免除制度より審査が緩くなっていると言えます。

学生納付特例制度と同様、申請して猶予が認められると「全額免除期間」という扱いになり、障害年金の保険料の要件を満たせる期間になります。

このように、納付猶予制度は学生やそれ以外の人(20歳以上50歳未満)といった将来的に追納がより期待できる年齢に限り納付を猶予します。

後から免除申請をする場合で障害年金の注意点

免除制度も納付猶予制度も過去に遡って認めてもらえますが、上で説明したとおり、障害年金の保険料納付要件を考えるうえでは、初診日の前日の時点で未納である事実は変わりません。

従って、医療機関を受診して、障害年金がもらえそうだからといって、その時点で遡って免除申請をしても時既に遅しということです。

ただ、逆に言えば、医療機関を受診される前に申請を行っておくことで、障害年金の保険料の要件②「初診日の前々月までの直近1年間に国民年金の未納がないこと」を満たせる可能性が出てきます。

弊社の相談事例で、矯正施設に入所中に障害年金の原因となる病気を発症した方がいました。

その方は免除の制度を知らなかったため、この仕組を利用されておらず、結果、未納期間となっていました。

結論、障害年金の受給に備えて、受診日の前日までに免除や猶予の申請を行っておけば、後から保険料を納付しなくとも、保険料納付要件を満たせる期間となってきます。

ここだけの話、納付要件を満たせない場合でも可能性はある

初診日とされる前日までに保険料の要件を満たせない場合でも、何か他に手段が無いか、弊社では簡単には諦めません。

このような場合、弊社では以下のことを考えます。

二十歳前に発病・受診の事実がないか

年金制度に強制加入する前より、発病・受診していると「二十歳前傷病の障害基礎年金」に該当する可能性があります。

年金制度には原則として20歳から加入するわけですが、生まれつきや幼少期に障害を負うこともある。

そのため、年金制度に入れなかった時期の障害に対する保障として用意されたのが、この特別な障害基礎年金です。

この障害基礎年金を受け取るためには保険料納付要件は考えません。

年金制度に入れないわけですから、当然保険料も払えないからです。

ですので、この「二十歳前傷病の障害基礎年金」の可能性が無いかどうかをヒアリングします。

年金記録が訂正される可能性はないか

会社が社会保険の手続きをせず本来だったら厚生年金に入っていた

配偶者の扶養であったはずなのに、年金記録上扶養という扱いになっていない

などなど・・。

年金記録が訂正されることで、保険料納付の期間が増え、保険料納付要件を満たせないか、その可能性を探ります。

しかし、最近では、年金記録の訂正がされる事例は少なくなっています。

社会的治ゆに該当する可能性はないか

社会的治ゆによる障害年金の請求は、初診日とされる受診以後、複数年にわたり仕事をしていたなど、社会通念上一旦病気が治ったと評価できる場合は、その後に再発した受診日を初診日として訴える請求方法です。

例えば、

A年B月にうつ病と診断されたが、その後就職して相当な期間が経過した(これは社会的治ゆと言える)

C年D月に再度うつ病と診断された。

A年B月では保険料納付要件を満たせないものの、その後のC年D月では保険料納付要件を満たせる

そこで、C年D月を初診日として障害年金を請求する

弊社では多くの事例でこのケースを考えます。

経験上、年金受給につながった事例もありますが、簡単ではありません。

いずれの方法にしても、証明する方法の難易度が高く、専門的な知識が必要になります。

ここだけの話、今回のまとめです

今回は、保険料納付要件を満たせない相談が多いことから、保険料が納付できない場合について、免除や納付猶予の制度を確認しました。

ポイントは以下のとおり。

  • 障害年金を受け取るためには初診日の前日の時点で保険料の納付・免除・納付猶予の申請をしていることが必要
  • 保険料を納められないなら様々な免除・猶予制度を利用し、未納を避けるべし

  • 保険料納付要件を満たせない場合でも可能性はある。専門家に相談すべき。

現在の症状が障害年金をもらえそうな程度であっても、保険料の要件を満たせていないと申請することすらできません。

症状の辛さがわかるのに、障害年金が申請できないとなると、私としても心苦しさだけが残ります

何とかしたいのですが、”初診日の前日”は既に過去のことですので何もできない・・・

最後にご紹介した保険料納付要件を満たせない場合でも申請できるケースがありますが、二十歳前に受診しているなど過去の事実が必要ですので、すべての人にはあてはまりません。

若い頃より症状のために就労できず、保険料を納付できずにいた方が、事前に免除を利用していたおかげで障害年金を受給できた例もあります。

実際に医療機関に受診する前に、弊社に相談される方も結構いらっしゃり、そういった方には受診前に気を付けなくてはいけないアドバイスもしています。

もしもの時に備えて、ご自身の年金記録を改めてご確認いただけたらと思います。

  • この記事を書いた人
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岡田真樹 みんなのねんきん社労士法人代表

大学卒業後メーカーに勤務。仕事中に左手を機械に巻き込まれ、親指以外を失う大ケガを負う。転職後、障害者雇用の枠で聴覚障害・発達障害・精神障害・身体障害を持つ方々と一緒に働いた経験を持つ。障害年金の手続きを自ら行なったことから年金制度に興味を持ち、社会保険労務士試験に合格。2020年よりみんなのねんきん社会保険労務士法人で実務の最高責任者を担い、2021年に代表就任。

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