ここだけの話、今回はこんな話です
「股関節や膝が痛くて、歩くのもつらい…」
激痛に耐えかね、医師から「人工関節」や「人工骨頭」の手術を提案された・・。
そのときに考えるのは障害年金ではないでしょうか?
実は先天性の関節の障害では障害年金を受け取れない制度的な矛盾があるのです。
ただ、この理不尽を打開する「社会的治癒(しゃかいてきちゆ)」という考え方が存在します。
今回は、この「社会的治癒」を駆使し、大きなハードルを乗り越えて障害年金に結びつけたみんなのねんきんの事例をご紹介します。
ここだけの話、今回はどんな事例?
中国地方の企業で働く50歳代の会社員Aさん(女性)から障害年金の相談を受けました。
Aさんは先天性で関節に病気をお持ちの方で、40歳代から痛みが激しくなって人工関節置換術を受けたという方です。
Aさんのこれまでの病歴は以下のとおり。
出生時
Aさんは生まれてすぐ、「発育性関節形成不全(先天性関節脱臼)」と診断されました。
幼少期は体に装具を装着する施術を受け、定期的に通院していました。
20歳代前半
就職を控えた学生時代。
将来を見据え、自分の骨を切って形を整える手術(臼蓋形成術、外反骨切り術)を受けました。
手術は成功。痛みは激減しました。
大学卒業後は一般企業に就職。営業職として歩き回る日々が始まりました。
「これで普通の生活ができる」
Aさんは仕事に打ち込みました。
就職後~40歳手前
仕事は忙しく、残業もこなし、健常者と変わらない働き方をしていました。
痛みが生じることがあっても湿布でしのげる程度だったのです。
ただ、医師の指示を守り、「年に数回の受診(経過観察)」はずっと続けていました。
40歳代~現在
40歳代になり転機が訪れます。
痛みが増大するようになってきたのです。
そしてついに歩行困難なほどの激痛に襲われました。
医師から告げられたのは、
「変形性関節症」との診断。
「人工関節置換術」の提案を受けたのです。
歩行が困難なほどの激痛ですからAさんは観念して手術を受けることにしたのです。
そして同時に、Aさんは障害年金の保障を受けられないかと考えるようになったのですが・・・。
ここだけの話、何が問題なのか?
Aさんは障害年金を調べて愕然とします。
実は、生まれつきの関節の病気に横たわる「初診日の壁」という大きな落とし穴があったのです。
具体的に見てみましょう。
Aさんの障害は先天性のもの。とすれば、初めて医師の診断を受けた日(初診日)は出生時となります。
ここで、
障害年金は初診日に加入していた公的年金制度によって、受け取れる年金が異なります。
- 障害基礎年金(国民年金):重い状態から1級・2級のみ
- 障害厚生年金(厚生年金):重い状態から1級・2級・3級
両制度の大きな違いは、障害厚生年金には障害等級3級があるものの、障害基礎年金には3級がないという点があります。
また、障害厚生年金を受け取るには初診日が必ず会社在籍中になければいけません。
一方で、
障害基礎年金は国民年金に加入していなくても対象になり得るメリットがあります。
通常は20歳になれば国民年金に加入し、原則として60歳まで加入が続きます。
とすれば、20歳前や60歳以後は、国民年金に入らないことになります。
この期間に初診日があれば障害年金の保障は受けられないのでしょうか。
そんなことはありません。
確かに国民年金には加入していないものの、加入していると同等の「障害基礎年金」を受けられるようになっています。
では、Aさんのケースを考えてみましょう。
Aさんは出生時が初診日となります。
出生時は年金制度に入っていませんが、例外的に国民年金制度の「障害基礎年金」に該当する可能性があります。
ところが、問題はここからです。
障害年金の認定基準によれば、
人工関節・人工骨頭をそう入置換した場合、原則として障害等級3級に認定される
と決まっています。
角度や筋力に関係なく、「そう入置換の事実」だけで3級です。
Aさんは、現在は働いて厚生年金の保険料を天引きの形で納めています。
ですので障害厚生年金の保障を受けられそうなものです。
しかし、初診日が出生時なので障害厚生年金は対象外。
一方で障害基礎年金は3級は対象外。
つまり、
「生まれつきの関節の病気(先天性関節脱臼など)」をお持ちの方の場合、日本年金機構の原則的な考えでは、「先天性の病気 = 初診日は出生時」とされるため、障害年金は受け取れない。
これがAさんの前に立ちふさがる巨大な落とし穴だったのです。
Aさんは納得がいきませんが、どうすることもできません。
制度のあまりの理不尽さに、途方に暮れていました。
ここだけの話、なぜ通院が継続すると難しいのか
このように「生まれつきの関節の病気」で障害等級3級に該当しても障害年金を受給できないのが制度の建付けなのですが、それでも解決の糸口はあります。
それは「社会的治癒」という考え方で対処するというもの。
この考え方は他のコラムでもご紹介したことがあるので参考にしてください。
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この社会的治癒を主張するにあたり、Aさんの場合、「継続した通院歴」が問題となります。
もし、20歳代に受けた手術の後、病院に全く行くことなく、痛みが激しくなった40歳代で受診していたらどうでしょう。
この場合は、「一度治った(社会的に治癒した)」として、40歳代の受診日を初診日にできた可能性が高いです。
しかし、Aさんは真面目な性格もあって「年に1~2回の通院」を20年間欠かさず続けていました。
日本年金機構は、カルテに通院記録がある限り、
「病気はずっと続いていた(治っていない)」
と判断します。
病気が続いているなら、初診日は一番最初の「出生時」まで遡ります。
Aさんのように、
「症状は落ち着いていたが、経過観察で通院していた」
というケースは、「社会的治癒」が認められにくい典型パターンなのです。
一般的に、社会的治癒が認められる目安は以下の通りです。
- 症状が安定し、治療不要の期間が長くある(数年以上)
- その期間、薬や通院をしていない
- 仕事や生活で、健常者と同様に活動できていた。
Aさんは「3(仕事)」は完璧ですが、「2(通院なし)」を満たしていません。
そのため、多くの専門家でも「通院が途切れていないなら無理」と断ってしまう、超難関案件だったのです。
ここだけの話、みんなのねんきんはこう手続きを行った
「通院歴があるから絶対無理」と諦めるのは早いです。
みんなのねんきんでは、ここからが専門家の腕の見せ所だと考えます。
私たちは、「通院はしていたが、それは『治療』ではなかった」というロジックで、真っ向から挑みました。
ポイントは3つです。
ポイント1 「治療」と「管理」を明確に区別する
Aさんの20年間の通院記録を調べてみると、診療の中身は「レントゲンと問診」だけだったのです。
医師:「変わりないですね」
Aさん:「大丈夫です」
これは客観的医学的には通院していると言えますが、社会保険の観点では「治療」ではありません。
私たちはこう主張しました。
この20年、薬も処置もない期間をもって、「病気の状態だった」とするのは不合理だと訴えたのです。
ポイント2 圧倒的な「就労実績」の証明
社会的治癒で最も重要なのは、
「社会的に治っていた(=普通に働けていた)」という事実です。
私たちはAさんの働き方を詳細に文書化しました。
- フルタイム勤務で欠勤ほぼなし
- 営業職としてノルマを達成
- 会社からの特別な配慮なし
- 残業や休日出勤もこなしていた
そう思わせるだけの証拠を積み上げたのです。
ポイント3 「別傷病」としての再構成
さらに、Aさんの病歴に関するストーリーを再構築しました。
20歳代の手術で、先天的な異常はいったん治癒した。
その後20年の就労を経て、加齢等により「新たに発症」したのが、今回の変形性関節症である。
因果関係を一度断ち切る構成です。
年金請求時に本人が作成する必要がある「病歴・就労状況等申立書」や医師の「診断書」にも、このロジックを反映させました。
具体的には医師にも協力してもらい、「長期間、症状は安定し就労可能であった」というコメントを診断書に入れてもらったのです。
結果、社会的治癒は認められた!
障害年金の審査の結果は、こちらの全面勝利と言えるものでした。
日本年金機構は、Aさんのケースについて「社会的治癒」を認定。
初診日は「出生時」ではなく、
「40歳代で痛みが増悪した日」
となりました。
この日は、厚生年金の加入期間中です。
その結果、無事に障害厚生年金3級の受給が決定したのです。
Aさんの安堵の言葉が、何よりの報酬でした。
もしご自身だけで年金請求し、「ずっと通院していました」と書いていたら?
おそらく障害年金は不支給になり、覆すことはできなかったでしょう。
ここだけの話、今回のまとめです

今回は、先天性の関節痛による障害年金の難しさを解説しました。
ポイントは以下のとおり。
- 先天性の関節の障害では障害年金を受け取れない制度的な矛盾を抱える障害年金制度
- 出生時に初診がある障害は障害基礎年金でカバーされるが人工関節のそう入置換は3級となる
- 社会的治癒を主張して初診日を出生時ではなく厚生年金加入時に移動させる手法がある
- Aさんの事例は継続的な通院歴があったため単純に社会的治癒を主張できないものであった
- みんなのねんきんの手法で他の専門家がさじを投げる案件を障害年金受給に結びつけた
人工関節の手術を受けたみなさま!
特に原因が「生まれつき」の方!
「制度上無理だ」という言葉を鵜呑みにしないでください。
今回のポイントは3つです。
「原則」と「例外」を知る
人工関節は原則3級で障害基礎年金は受け取れせません。ですが、「社会的治癒」を使えば初診日を動かせる可能性があります。
「通院歴」だけで諦めない
「通院継続=絶対ダメ」ではありません。
診療内容が「メンテナンス」であり、十分な就労実績があれば、覆せる可能性があります。
「事実」を「審査上の言葉」にする技術
ただ「働いていました」と言うだけでは伝わりません。法的なロジックに落とし込み、証拠として提出するプロの技術が必要です。
「社会的治癒」を活用する事例は、障害年金の中でも最高難易度の分野です。
「自分の場合はどうなんだろう?」
「通院はずっとしていたけれど…」
そう悩んでいる方は、自身で手続きして不支給になる前に、ぜひ一度「みんなのねんきん」にご相談ください。
あなたの「痛みとともに働いてきた長い年月」が無駄にならないよう、私たちが全力でサポートします。



岡田真樹
みんなのねんきん社労士法人代表