ここだけの話、今回はこんな話です
「あ〜、あと1ヶ月、保険料を納めていれば障害年金の申請ができたのに・・・」
「この金額では生活できないというのも理解できる・・」
私が障害年金の相談の現場で感じる、よくある課題です。
最近では障害年金制度の認知度が多少は高まってきましたが、それに比例して、この制度の課題が浮き彫りになってきました。
今回は社会保障審議会年金部会で共有された障害年金制度の課題と、私自身が相談の現場で感じる制度の課題をご紹介して、こんなふうにすべきでは?という提言を行います。
ここだけの話、障害年金制度の課題はこれだ
私が手続代行を行っている障害年金制度は、国民年金法・厚生年金保険法にその支給要件や金額のルールが定められています。
法律ですので、時代や社会環境により改正が必要になります。
そこで、これら年金法の改正については、厚生労働省が設置する社会保障審議会年金部会(以下、「審議会」)で話し合いが行われています。
ただ、そこで話し合われることの多くは、今後の年金財政が主なテーマ。
年金制度が、すでに突入している少子高齢化時代にいかに対応するかということです。
となると、
障害年金制度は公的年金制度全体からみるとマイナーな分野。
審議会でもあまり取り上げられることがありません。
ところが、
珍しく第5回(2023年6月26日)、第17回(2024年7月30日)で障害年金制度がメインで取り上げられました。
今回は障害年金実務の専門家の立場から障害年金制度の課題について考えてみたいと思います。
ここだけの話、実務の現場が考える課題とは
まずは実務の現場で常に感じる課題を2つ取り上げます。
1.保険料の未納
障害年金を申請するためには、以下の3つの要件を満たす必要があります。
- 初めて医師の診断を受けた日(以下、「初診日」)に年金制度に加入している(初診日要件)
- 保険料を一定程度納めている(保険料納付要件)
- 障害認定日において、当該障害が法律で定める状態に達している
この中で、申請に大きな壁となるが、2の「保険料納付要件」です。
この要件は、以下のどちらかを満たしていることが必要です。
- 原則:初診日の前々月までの年金制度加入期間全体のうち、未納期間が3分の1未満である
- 例外:初診日の前々月までの直近1年間に未納期間がない(初診日が令和8年4月1日前にあり、65歳未満であること)
原則は申請する方の年金加入の歴史全体を振り返ることになりますが、例外は、直近1年だけで判定することとなります。
例えば若い時に未納が多かったという方であっても、医者に診てもらった直近1年に限ってはきちんと納めていた ということであればこの要件を満たせます。
ただ、
制度としてはこのような救済策を用意しているにも関わらず、この要件を満たせそうにない相談が実に多いのです。
1の初診日要件についても、証明が難しいという課題がありますが、そもそも2において保険料を納めていなければ1の話にもなりません。
そもそも公的年金制度は強制加入であるはずなのに、保険料の未納が多い実態が課題と感じます。
2.支給額が少ない
実際に障害年金を受け取っている方からは「障害年金の額が少ない」との相談もあります。
主に自営業者が加入する国民年金から支給される障害基礎年金2級の額は年間80万円程度です(単身者の場合)。
この障害基礎年金の受給者には、別途、年金生活者支援給付金という年金制度とは別制度からの支給がされますが、月額5千円程度・・・。
年金生活者支援給付金とは
年金生活者支援給付金は、消費税率引き上げ分を活用し、公的年金等の収入金額やその他の所得が一定基準額以下の方に、生活の支援を図ることを目的として、年金に上乗せして支給するもの。
障害基礎年金と合わせると、1カ月当たり7万円程度です。
実務の現場では「生活保護の方がいいのではないか」と強い口調で言われることもあります。
この給付水準の低さは統計データからも伺えます。
厚生労働省の実施する国民生活基礎調査(2022年)では、貧困か否かのライン(可処分所得の中央値の半分)を127万円と定めています。
障害年金と年金年金生活者支援給付金を併せても、このラインを超えられない状況です。
そもそも年金制度はみんなで保険料を出し合って、老齢・障害・家族の死亡に対して年金給付をすることで、貧困になることを防ぐことにあります(防貧機能)。
この金額では、障害年金の防貧機能としての役割が不十分であることを痛感します。
ここだけの話、審議会で話し合われた課題とは
つぎに、審議会で共有された障害年金制度の課題についてまとめてみましょう。
第17回(2024年7月30日)の審議会では現時点で議論が求められる課題として以下の5つが列挙されました。
- 初診日要件
- 事後重症の場合の支給開始時期
- 直近1年要件
- 障害年金受給者の国民年金保険料免除の取扱い
- 障害年金と就労収入の調整
どのような課題か、以下に簡単に解説します。
1.初診日要件
まずは、障害年金の3要件の「1」に関するもの。
障害年金は、初診日に加入していた年金制度(国民年金・厚生年金保険)から支給されます。
会社員として厚生年金保険に加入していた方が退職後に無職となってから初めて医者にかかると、「国民年金制度から支給される障害基礎年金」を申請することになります。
仮に、会社員時代に医者にかかっていれば、障害基礎年金と併せて、厚生年金制度から障害厚生年金も支給されます。
会社員は厚生年金と併せて国民年金の両制度に加入しているからです。
となれば、障害基礎年金単独で受給するのと、障害基礎年金+障害厚生年金ではその保障内容に大きな差が生じることは言うまでもありません。
そこで、厚生年金の資格を喪失した退職後であっても条件をみたせれば、「厚生年金保険の障害厚生年金」を支給してもよいのではないかという意見があります。
というのも、在職中は厚生年金の保険料を納付していますから、それが反映されないのはおかしいとして現行の初診日要件の範囲を広げることが課題とされています。
2.事後重症の場合の支給開始時期
障害年金を請求できる時期は、
- 初診日から1年6カ月時点
- 初診日から1年6カ月時点から1年以上経過した時点
の2つがあります。
前者を「障害認定日請求」といい、この請求方法で障害年金が認められると、過去に遡って支給されます。
最長5年遡れますが、人により、まとめて支給される金額は数百万円に達することがあります。
一方、
後者を「事後重症請求」といい、この請求方法で障害年金が認められると、過去には遡らず請求月の翌月分から支給されます。
仮に、障害状態に該当して何年も障害年金を申請していない場合でも、後者の方法で請求すると、遡ることができません。
障害状態に該当した時点から障害年金が受給できない点を課題としています。
3.直近1年要件
ここは、障害年金の3要件のうち、「2」に関するもの。
保険料納付要件の
例外:初診日の前々月までの直近1年間に未納期間がない(初診日が令和8年4月1日前にあり、65歳未満であること)
についてです。
この例外の要件は、令和8年4月1日前、つまり同年3月31日までに初診日がある場合の期間限定の措置なのです。
もともとは昭和61年に年金制度が大きく改正されて現行制度となった際、「未納期間3分の1未満」の原則だけでは障害年金の要件を満たすことが難しいということから導入されたもの。
すでに40年近く経過しており、この例外規定は役割を終えたのではないかという意見が出ています。
ただ、現在においても、この例外規定があったお陰で障害年金を受給できるケースが多数あり、この期限を延長するか否かが課題となっています。
4.障害年金受給者の国民年金保険料免除の取扱い
障害等級の1・2級に該当した障害基礎年金を受けられる場合、国民年金の保険料を自身で納めている方は、届出ることで保険料が免除されます(これは「法定免除」という仕組みです)。
この免除してもらえた期間は、将来の老齢基礎年金には2分の1ヶ月分として年金額に反映します。
保険料を納めなくてもよい代わりに、老後の年金は半額になってしまうわけです。
ここで、
障害年金を受給しているからといって、生涯に渡って保障を受けられるかどうかはわかりません。
障害状態が改善すれば、障害年金は停止となる可能性があるからです。
その場合、障害年金の代わりに老齢年金を受け取ることになりますが、免除期間が長くなればなるほど低額となる。
つまり、障害状態の期間が長期間の方ほど、まともな老齢年金の保障を受けられないことが課題となっています。
5.障害年金と就労収入の調整
障害年金の受給中は定期的に障害の状態を報告(これを「更新」と言います)する必要があります。
ただ、障害の状態によってはこの更新が必要がないものがあります。
例えば、私のように指を欠損した身体の障害の場合は、「永久認定」という扱いになり、更新は不要です。
一方で、うつ病などの精神障害の場合は、2〜5年おきに更新が必要となります。
更新が必要な障害は「有期認定」となります。
更新により、障害等級に該当しなくなると年金が停止される可能性があります。
ここで永久認定と有期認定の間で問題が生じます。
永久認定の場合はどんなに就労していても、更新がないので、障害年金が止まることはありません。
一方で、有期認定の場合、就労してある程度の所得が得られるようになれば、状態が軽くなったとして、次の更新で障害年金が止まる可能性があります。
このように、現行制度は更新の有無によっても、保障内容が異なるという課題があります。
ここだけの話、障害年金の課題を解決するための私の提言
最後に、さきほどの私が感じている課題について、その解決策の提言をしたいと思います。
- 保険料の未納
- 支給額が少ない
保険料の未納について
私の提言1
私自身も保険料納付の大切さを訴え続ける
これは提言というよりも、私の決意みたいなものですが、お許しください。
保険料の未納問題はかなり昔から社会問題化していたのはご存知のとおり。
この点、督促業務を民間企業を使って強化したり、納められないのであれば、保険料免除や猶予の仕組みを活用しやすくしたりと、行政側も対策を強化しています。
その結果、一時は6割を切っていた保険料の納付率が現在は8割近くまで上昇しています(現年度分(点線)。2年前まで遡って納められた分は最終納付率(実線))。
また、免除の手続きなどがスマートフォンでできるようになったり、QRコード決済で保険料納付できるようになったり、以前より利便性が向上しています。
さらに言えば、
現在の年金改正の方向性は、雇用されている人のほとんどを社会保険に加入させようというもの。
社会保険に加入すれば保険料は給与から天引きとなるので未納が生じません。
国の施策が進めば、将来的に未納問題はより小さくなっていくと思われます。
それまでに、私ができることは、これまでも何度もコラムで訴えてきましたが、保険料を未納にしないことを発信し続けたいと思っています。
まだ、2割の人が保険料を未納にしています。
そういった人に限って障害年金を必要とする事態に陥ります。
どんなに重い障害状態でも保険料納付要件を満たせなければ障害年金を受け取れません。
年間100万円近くの金額を何年にも渡って受け取れたはずなのに、こんなに悔しいことはありません。
そんなことにならないよう、このコラムを読んでいるあなたは、未納にだけはしないでください。
支給額が少ない点について
私の提言2
- 保険料の納付期間45年に延長の実現
- 障害年金以外の周辺の仕組みで保障額を増やす
最近まで私が期待していたのは国民年金の保険料納付の期間を60歳未満から65歳未満へと5年延長する審議会の議論でした。
そもそも障害年金は、65歳から老齢年金が支給されるまでに、障害によって稼得能力が失われた際の早期保障との位置づけです。
したがって、その給付水準も老齢年金に準じていいます。
そこで、
納付期間が増える → 老齢年金の額が増える → 障害年金の額も増える
と期待していたのですが、本格的に改正議論が始まる前に厚労省は改正を見送りました。
私は、この5年の納付期間延長はいつかは実現されるべきと感じます。
もちろん、
他の制度との関係性や保険原理も考慮しなければならず、「障害年金だけ増額させる」ということは、難しいのかもしれません。
例え障害年金自体の増額が現時点では難しくても、周辺の制度を改正することで対応できるのではないでしょうか。
特別障害者手当や年金生活者支援給付金がその役割を担えるはずです。
特別障害者手当とは
精神又は身体に著しく重度の障害を有し、日常生活において常時特別の介護を必要とする特別障害者に対して、重度の障害のため必要となる精神的、物質的な特別の負担の軽減の一助として手当を支給する仕組み
-
特別障害者手当について|厚生労働省
特別障害者手当についてについて紹介しています。
www.mhlw.go.jp
これらの制度は、既に受給者の所得を確認していますので、貧困ラインに満たない、障害者への保障も可能と思われます。
利害が対立する年金制度自体を改正するよりも、時間を掛けずにできるはず。
年金制度以外の福祉の制度も含めて、障害者の防貧機能を強化してほしいです。
ここだけの話、今回のまとめです
昭和61年に現行の障害年金制度に変わってから長い期間が経ちました。
時代の流れの変化から制度の課題が指摘されています。
そこで、私が障害年金の実務の現場で感じる課題と、審議会で共有されている課題をご紹介しました。
ポイントは以下のとおり。
- 障害年金の相談実務で感じる課題は2つ
- 保険料の未納が多い
- 障害年金の金額が少ない
- 社会保障審議会年金部会において共有されている課題は5つ
- 提言1:私自身も周知を続けたい 提言2:納付期間の延長・周辺制度の改正をすべき
上で紹介した審議会で共有された課題は、今後も、細かい情報収集、ヒアリングが行われ、議論を続けていくとのこと。
こらからもその行方に注目していこうと思います。
そして、いつの日か私が審議会のメンバーに選ばれたときは、障害者であり、かつ障害年金の実務を行う立場から今回のコラムの内容を強く訴えるつもりでいます。
読者のみなさま、長い目でご期待ください。
岡田真樹
みんなのねんきん社労士法人代表