今回のコラムは年金実務者向けの内容です。
ここだけの話、今回はこんな話です
年金を勉強している・実務に携わっている方であれば、障害年金の請求には3種類あるのはご存知だと思います。
- 障害認定日による請求
- 事後重症による請求
- 初めて1・2級に該当したことによる請求
障害年金の請求書にもいずれかに丸をつけるようになっています。
通常は、初診日から1年6カ月経過時に障害認定日よる請求ができます。
審査の結果、障害状態が軽いとして不支給となっても、その後悪化したら事後重症請求ができます。
また、事後重症請求が軽いとして不支給となっても、65歳到達日前日前までなら、症状が悪化すれば、再度事後重症請求をすることができます。
障害年金は、同じ傷病で何度も請求する場合があるんです。
この場合、初診日は同じ医療機関・同じ日ということになります。
では、
改めて再度請求する場合、初診日を証明する書類を再度取得しなければいけないのでしょうか?
この点、
2020(令和2)年9月28日付で厚生労働省により「請求者の負担軽減のための障害年金に係る業務改善等について」という通達が発表されました。
この通達による業務改善は10月1日から実施されています。
通達の中に、再請求する場合における初診日証明書類について挙げられています。
今回は、新しく発表された厚生労働省の通達により、年金行政がどのように業務改善されたのかをまとめてみます。
ここだけの話、こんな症状・こんな事例です
これまでの再請求時の問題点
再度の請求でも初診日の証明書類が必要
これまでの障害年金の相談で、「もう一度請求したい」というご希望は非常に多いです。
ご自身やご家族で申請手続きを行ったが、障害状態が軽いとして認められず不支給に・・・。
同じ傷病名で再度申請手続きを行う場合、前回の申請手続き時と違ってくるのは、障害状態の程度です。
障害状態が悪化していることを証明するため、医師に改めて現在の症状の診断書を作成してもらう必要があります。
ここまでは、当然のこととして理解できるでしょう。
では、初診日を証明する書類はどうでしょうか?
初診日については、以前の申請手続きで提出した”初診日証明書類(受診状況等証明書)”(以下、「初診日証明書類」と略します)を利用することが認められています。
この場合、年金事務所では、以前と同じ内容の初診日証明書類の提出を求めてきます。
ちなみに、()で記載している「受信状況等証明書」は以下の書類です。
そこで、
以前請求した際の初診日証明書類を手に入れる必要が生じるわけですが、これが一筋縄ではいきません。
再度の書類取得が難しい場合も
まずは、初診時の医療機関に再度書類作成を依頼することを考えます。
医療機関で書類を依頼すると、当然、料金がかかります。
医療機関によりその金額に幅がありますが、最近では、初診日証明の文書代として、3,000~8,000円となっています。
同じ内容の書類を取得するために、再度お金を払う…一度不支給の決定を受けていると、必要な書類代とはいえ、躊躇されてしまう方もいます。
また、
以前の申請手続きで作成してくれた医療機関が廃院等でなくなっていて取得できない場合もあります。
さらには、
医師の中には、同じ書類を再度書くことを嫌う方もいらっしゃいます。
同じものを二度作成する意義を説明するのですが、「年金事務所が求めている」だけでは、説得力が足りないのかもしれません。
不正受給のためではないかと誤解されたこともあります。
一度、取得できた書類だから、医療機関も協力的に作成してくれるはず・・・と決めつけていると、思いがけず苦労してしまいます。
医療機関で取得できない場合はどうするか
初診日証明書類が取得できなかった場合は、前回の申請手続きで提出した書類(の写し)を探さなくてはいけません。
請求者が運よく写しを持っていたらいいのですが、持っていない場合は、提出した年金事務所に問い合わせ、取り寄せてもらうことになります。
取り寄せには、時間がかかってしまうこともあり、請求者から不信感を抱かれてしまったこともあります。
写しを手に入れてもそれだけでは、初診日証明の代わりにできません。
なぜ取得することができなかったのか、申出書・上申書などの添付を求められます。
どのように業務改善されたのか
初診日証明書類が不要に!
2020(令和2)年10月1日より実施されることになった厚生労働省の通達により、どのように業務改善が行われたのでしょうか。
通達の中に、
「同一傷病かつ同一初診日障害年金を再請求する場合における初診日証明書類の簡素化について」
とあり、
再請求では、前回提出した初診日証明書類を再請求での初診日証明書類とすることができるとあります。
つまり、再請求では、初診日証明書類がなくても大丈夫!ということになりました。
ただし、
どのような場合でもそのように取り扱ってくれるという訳ではありません。
初診日証明書類が不要となる要件
前回請求時に初診日が認められずに却下されていないこと
前回の請求で初診日要件や保険料納付要件に争点がないことが前堤となります。
メモ
・初診日要件:初診日に国民年金・厚生年金保険どちらに加入していたかを確認すること
・保険料納付要件:初診日の前々月まで法で定められた期間の保険料を納付しているか確認すること
再請求の理由が「病状が悪化」していること
前回請求では、障害状態が軽いと判断され、不支給の決定がされていますので、再請求時には、症状が前回請求したときよりも「悪化」していないといけません。
前回証明書類を当該再請求時における初診日証明書類として用いることを希望する申出書を添付
再請求時で自動的に前回の初診日証明書類が代わりになるわけではありません。
年金事務所などの受付窓口で、以下の申出書の提出が必要になります。
2017(平成29年)度以降、かつ、今回の再請求提出日から5年以内に前回の請求で提出された初診日証明書類であること
前回請求がいつでも良いという訳ではありません。
2017(平成29)年4月より後に請求したものになります。
また、前回の請求日か5年以内に再請求を行わないといけません。
つまり、2017(平成29)年3月以前に前回請求をしていた場合は、再請求時に初診日証明書類を求められるということになります。
ここだけの話、今回のまとめです
今回は、10月1日より改善された、再度請求を行う場合の初診日証明書類の取り扱いについて書いてみました。
再請求では、初診日証明書類を取得しなくても良いという取扱変更がされ「請求者の負担軽減」になるよう改善されました。
ただし、注意する点があり、ポイントは以下のとおり。
- 前回不支給決定時に初診日要件に問題が無いこと
- 症状が悪化したことを理由にした再請求であること
- 申出書の添付が必要なこと
- 前回請求が2017(平成29)年度以降、かつ、再請求から5年以内にしていること
期間が限られていますので、相談時には、前回請求がいつだったかしっかり確認しないといけません。
この業務改善に該当する場合はいいのですが、前回請求から時間がたっていると、初診日証明書類の取得が困難になるケースが多いです。
そのような時、専門家としての力量を問われることになります。
障害年金の請求者は、傷病のため、外出が困難な方も多くいます。
このような「請求者の負担軽減」の視点で改善されていくことはいいことだと思います。
障害年金への相談が増えていることも踏まえてさらなる改善が行われることに期待します。
出典・参考にした情報源
厚生労働省ウェブサイトよりダウンロード:
-
Dropbox - 20200928 障害年金再請求 業務改善通達.pdf - Simplify your life
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岡田真樹
みんなのねんきん社労士法人代表