ここだけの話、今回はこんな話です
今回も当社が実際に受けた障害年金相談から、障害年金の受給が認められた事例を紹介します。
当社の相談で、非常に多いケースとして、
というものがあります。
今回ご紹介する事例も当初の聴き取りでは、「医師が障害年金を受給できるかどうかはギリギリだと言っていた。地元で専門家に相談したら、そこでも難しいと言われた」とのことでした。
そのような状況の中、みんなのねんきん社労士法人でどのように受給に結びつけたのか。
今回は、障害年金を決定するための客観的な基準を解説しながら、受給までの経緯を追ってみます。
ここだけの話、こんな症状・こんな事例です
障害状態を認定する客観的な基準とは
障害年金決定の客観点な基準として、「国民年金・厚生年金保険 障害認定基準」(以下 認定基準)や「国民年金・厚生年金保険精神の障害に係る等級判定ガイドライン」(以下 ガイドライン)があります。
障害年金が認められる基準が、これらに記されています。
精神疾患の障害状態は、身体の障害と違い、検査や筋力・稼働域のような客観的な数値で表現することが難しいことは、読者のみなさんも想像できると思います。
そのため、障害状態をどのように判断するか「障害認定基準」や「ガイドライン」があるわけです。
しかし、これらの理解や解釈を間違えてしまうと、相談者に誤ったことを伝えてしまう可能性があります。
特に「ガイドライン」の理解によっては、障害年金の申請を諦めてしまう方もいます。
そのため、精神疾患を理由とした障害年金を請求する際には、ガイドラインの理解が欠かせないのです。
「ガイドライン」のマトリクス表
「ガイドライン」には、一般にマトリクス表と呼ばれている表が記されています。
下の画像がマトリクス表です。
マトリクス表は障害等級を決定する際の目安となるものです。
下の画像は、障害年金を申請する際に提出する診断書(精神の障害用)の裏面ですが、「日常生活能力の判定」、「日常生活能力の程度」のチェックマークから、マトリクス表に当てはめて、障害等級を決定する目安とします。
具体的には、マトリクス表縦軸の「判定平均」は、診断書における「日常生活能力の判定」の7つの項目のチェックされている箇所を左から1~4とし、その平均したものとなります。
一方、マトリクス表横軸の「程度」は、診断書における「日常生活能力の程度」のチェックされている箇所になります。
これらが交差した箇所に例えば「1級又は2級」とあれば、目安としては”障害等級1級か2級が妥当”ということになるわけです。
マトリクス表の見方については、みんなのねんきんブログの以前のコラムにもまとめたことがあるので参考にしてください。
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「ギリギリ」とはどういうことか?
具体的に上の画像の診断書の例で考えてみましょう。
診断書左側の「日常生活能力の判定」の7つの項目(画像の左の赤枠)は、全て左から2番目にチェックが入っています。
すると、「判定平均」は、”2.0”、横軸の「程度」は「(3)」(画像の右の赤枠)。
これをマトリクス表にあてはめると、「2級又は3級」ということになります。
ここで、障害等級について解説しましょう。
障害年金は、初診日(初めて医師の診断を受けた日)に加入していた年金制度によって、請求できる障害年金の種類が異なります。国民年金に加入していれば障害基礎年金、厚生年金保険に加入していれば障害厚生年金になります。
通常、サラリーマンは厚生年金保険に入っていれば、同時に国民年金にも入っているので、2つの障害年金を受け取れる可能性があるわけです。
そして、
障害基礎年金と障害厚生年金の相違点として、等級があります。
障害基礎年金は、重い方から1級と2級のみ、障害厚生年金は、1・2級の他に3級、更には年金ではない一時金(一回受け取ったら終わり)の障害手当金まであります。
「2級又は3級」の場合、初診日が国民年金の障害基礎年金だと3級がないので、仮に”3級に該当”と判定されると、年金が全く支給されない可能性があります。
今回の相談者は、初診日が国民年金の方でした。
このことから、先に相談を受けた医師は「ギリギリ」としたようです。
不支給というリスクを説明することも必要ですので、地元の専門家も「難しい」と判断されたのだと思います。
当社に相談されたのはそんな経緯があってのことでした。
実際にカウンセリングを実施し、当社の見立てでは、この方は障害年金が支給されるべきで、その可能性はあると判断。
手続きを行うことを勧め、当社が手続き代行をすることとなりました。
ここだけの話、何が問題なのか
早速、手続きを進めてみると、出来上がった医師の診断書は、上の例の画像と全く同じ箇所にチェックがされていました。
医師がギリギリと判断する場合、例のような診断書になることがあります。
精神疾患の場合、不安感が大きくなりますから、不支給の可能性があると説明されれば、申請を諦めてしまうかもしれません。
障害年金の専門家として、受給できない可能性を説明することも必要ですが、障害状態にある方が申請を諦めてしまう事態は避けなくてはいけません。「諦めたらそこで試合終了です。」
繰り返しますが、「ガイドライン」のマトリクス表は、障害等級の目安という位置づけ。
とすれば、
2級と3級の境目はどこにあるのか、2級と認められるにはどういう要素が必要なのか、
マトリクス表を踏まえたうえで、最終的な等級の決定基準が問題となります。
ここだけの話、みんなのねんきんではこう対応した
実は「ガイドライン」にはこうあります。
「障害等級の目安」を参考としつつ、「総合評価の際に考慮すべき要素の例」で例示する様々な要素を考慮したうえで、総合的に判定する」
つまり、
最終的には、総合判断するわけです。
そして、
「総合的に判定」するために、「総合評価の際に考慮すべき要素の例」を考慮するとあります。
では、その例とはどういうものでしょうか。
具体的には以下のように列挙されています。
現在の病状、療養状況、生活環境、就労状況、などのそれぞれの場面において、考慮すべき要素と具体的な内容例が示されています。
ここで重要になることは、いかに、相談者の状況を訊き出せるかというです。
カウンセリングに必要な傾聴の姿勢はもちろんですが、それぞれの状況で考慮すべき要素に関連する事実があるかを訊き出すために、相談者にとってイメージしやすい説明が求められます。
もちろん、その前提として、相談者と信頼関係を築けていることが重要なのは言うまでもありません。
このような相談者に対するスタンスは、申請をする際、行政側に対するスタンスでも同じことが言えます。
聴き取りで得られた事実を「病歴・就労状況等申立書」などに記載していきますが、書類を審査する行政の担当者がひと目で理解してもらえるように、わかりやすく記載していくことが必要です。
今回の事例では、総合評価を左右する具体的な事例の聴き取りができたので、それらを丁寧に申請書類に反映し、提出をしました。
当社のこのようなスタンスが功を奏して、結果、障害基礎年金2級の受給が認められました。
ここだけの話、今回のまとめです
今回は、年金受給が「ギリギリ」と思われるケースについて書いてみました。
「ガイドライン」のマトリクス表は、障害等級の判定が目安としてわかりやすくなっています(少し前まではこのようなガイドラインがなく、地域によって認定にバラツキが生じることが大きな問題となっていました)。
わかりやすくなった反面、マトリクス表のみをもって「難しい」「受給できない」と言うことも簡単になりました。
例え「ギリギリ」「難しい」と言われても諦めてはいけません。
ポイントは以下のとおり。
-
「ガイドライン」のマトリクス表の等級はあくまで目安である
- 等級決定の過程では、現在の病状、療養状況など考慮すべき要素が存在する
- 障害等級の判定は、「障害等級の目安」を参考に、「総合評価の際に考慮すべき要素の例」を考慮し、総合的に判定される
- 各状況で考慮すべき要素となる情報を相談者から訊き出せることが大事
- 傾聴やイメージしやすい説明を意識する
精神疾患による障害年金の相談では、認められない理由の説明だけで終わらせてはいけません。
障害年金が必要な方どうか、しっかりした情報から判断し、難しい場合でも諦めないことが障害年金の専門家だと思います。
最初の相談で安易に判断してはいけません。
受給の可能性が高くなるよう追究の姿勢を常に意識していくことが大事であり、これが当社の障害年金相談のスタンスとなっています。
岡田真樹
みんなのねんきん社労士法人代表