今回のコラムは年金実務者向けの内容です。
ここだけの話、今回はこんな話です
障害年金の手続きでは、年金事務所に請求書類を提出した後に書類が戻ってくることがあります。
これを「返戻(へんれい)」と呼びます。
返戻は、窓口で受付した提出書類の内容や添付書類に不備があったため戻されることを指します。
明らかな不備で返戻されるだけでなく、審査の過程で改めて、状況の確認や追加書類の提出が求められる返戻もあります。
今回は、2020(令和2)年度、みんなのねんきん社労士法人で実際にあった印象に残っている返戻事例について、どのように対応したかを書いてみようと思います。
ここだけの話、こんな症状・こんな事例です
事例1 印鑑が違うから返戻?
こんな返戻でした
2020(令和2)年9月に提出した障害年金の事後重症請求について、10月に返戻がありました。
内容は、委任状の印鑑と障害年金請求書の印鑑の形が違うので整備してほしいとのこと。
印鑑には、サイズや文字の形が違うものがあります。
当社では、障害年金手続き代行の依頼を受けるにあたり、ご契約と同時に委任状にも記名・押印をいただきます。
その後、障害年金手続きが進み提出書類をまとめる際に、認印をお借りします。
契約いただいた日と提出日は、期間があくため別の日になります。
委任状と全く同じ印鑑を年金請求書にも押印しないといけないという認識はなく、単に認印をお借りすればよいと考えていたのですが・・。
これまで多くの障害年金請求書を提出してきましたが、初めての指摘で驚いたことを覚えています。
今回の返戻については、障害年金センターからではなく、年金事務所で受付された時点で窓口からの返戻でした。
内容についての不備ではなく、手続き上の不備ですので、軽微なものになります。
メモ
障害年金の請求は、最初のステップで年金事務所で受付をした際に書類上の不備がないかの形式上のチェックがされ、次のステップで障害年金センターにおいて形式的・実質的な審査がされ、不備があれば返戻される構造となっています。
みんなのねんきんではこう対処した!
この返戻に対しては、年金事務所の指示通りに対応することにしました。
依頼人に改めて、請求書と同じ印鑑で委任状に押印をお願いし、請求書と同じ印鑑で押印された委任状を改めて提出しました。
その後、問題がなかったようで、審査もスムーズに行われました。
今後もこのような返戻があるかというと、一切ありません。断言します。
なぜなら、令和2年12月25日より年金手続きの押印が原則廃止となったからです。
金融機関への届け出印、実印による手続きが必要なもの以外の押印は、今後の年金手続きにおいて不要となっています。
ですので、委任状と請求書の印鑑の形が違っていても、それ以前に、押印がされていなくとも、返戻されることはありません。
このような返戻は、最初で最後だと思いますが、備忘録のためにどのように対応したかの記録です。
参考までに日本年金機構のアナウンスがこちら。
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令和2年12月25日より年金手続きの押印を原則廃止します|日本年金機構
続きを見る
年金手続書類に関して年金行政機関に対する押印が不要になったとはいえ、当社でご記入いただく委任状には、押印を引き続きお願いしています。
というのも、
依頼者とのご契約の際、「確かに互いに契約をした」という信頼度を高める上でも押印があるか無いかは違うと思うからです。
また、
委任状は、日本年金機構向けだけでなく医療機関に対しても使用します。
医療機関が押印のない委任状を認めていないことも、引き続き押印をお願いしている理由です。
事例2 「てんかん」で遭遇した返戻
こんな返戻でした
こちらも2020(令和2)年9月に提出した障害年金の事後重症請求について、10月に返戻がありました。
メモ
事後重症とは文字通り、あとから症状が悪化して障害年金で定める等級に該当したために請求するものです。
請求傷病は、「症候性てんかん」で、依頼者は、幼少のころよりてんかんの発作に悩ませている方でした。
てんかんの場合、作成いただく年金用の診断書の種類は、「精神の障害用」になります。診断書の「⑩障害の状態」の内容のところをしっかり確認しなければなりません。
診断書を医師に作成していただき、「てんかん発作」があることやてんかんのタイプ・頻度が記されていました。
しかし、今回の診断書で悩んだ箇所があります。
「⑩障害の状態」において、「Ⅷ 発達障害関連症状」の「1 相互的な社会関係の質的障害」にチェックがついていたことです。
発達障害で申請する場合、「病歴・就労状況等申立書」を出生時から作成します。
メモ
病歴・就労状況等申立書はこれまでの病気の状況を時系列で年金請求者が作成するものです。年金請求手続きの代行においてはこの書類の作成は本人の代わりに当社が行います。
今回は、「症候性てんかん」の病名で請求します。
当社では、「病歴・就労状況等申立書」をてんかんの発症時期から作成し2020(令和2)年9月に提出しました。
依頼者の病気の経歴や日常生活の状況からも出生時からの関連性がないと判断したためです。
その後、10月上旬に返戻がありました。
指示の内容は、診断書の「⑩障害の状態」において、「Ⅷ 発達障害関連症状」にチェックがついているため、病歴・就労状況等申立書を出生時から作成するようにとのことでした。
ちょっとわかりづらいので、何が問題かまとめましょう。
障害年金請求に必要な「病歴・就労状況等申立書」を出生時から作成したものを提出するのか、発症時から作成したものを提出するのか、当社の考え方と行政機関の考え方とが違っていたということなんです。
みんなのねんきんではこう対処した!
実は今回のケース、もしかすると返戻があるかも・・・と予想をしていたんです。
ですので、事前に請求者の出生時から発病前の聴き取りを済ませておきました。
返戻後の病歴・就労状況等申立書の整備もスムーズに行い、翌日には返送できました。
その後の審査では、不備を指摘されることもなかったです。
提出から返戻された時間を考えると、審査期間の障害年金センターではなく、こちらも提出先の年金事務所からの返戻だったことが予想されます。
しかし、今後の対応としては、「てんかん」の病気の経歴と日常生活状況から発達障害と関連性がないような場合でも、診断書の「⑩障害の状態」において、「Ⅷ 発達障害関連症状」にチェックがあれば病歴・就労状況等申立書は、出生時から作成する必要があるということになります。
当社にとって、今後の実務に参考になる返戻事例となりました。
ここだけの話、今回のまとめです
今回は、当社であった返戻についてその内容と対応方法について書いてみました。
- 提出書類の中での印鑑の種類が違うとの理由で返戻された → 年金手続き書類への押印が不要になったため今後の返戻はないが、依頼者との信頼関係の構築・医療機関との関係で押印が必要な場面もある
- 傷病名が「てんかん」でも診断書の発達障害の項目にチェックがあった場合 → 「病歴・就労状況等申立書」は、出生時から作成する
書類が返戻される都度、実感することがあります。
それは、障害年金の請求は、個人個人のケースに合わせた対応が必要ということです。
過去の事例を参照できても、細かいところまで全く同じケースということはほとんどありません。
提出書類を整備していく時は、一人ひとりにしっかり向き合っていかないといけません。
返戻をいただくと、正直、良い思いはしません。
しかし、対応せずにそのままにしておけば、その分審査が遅れることになります。
依頼人の不利益にならないことが一番ですので、特に迅速な対応が求められます。
障害年金の専門家として「最もよい方法を判断して、対応していく力」を身に着ける必要を感じています。
岡田真樹
みんなのねんきん社労士法人代表