知的障害を親が認めない!幼少期のAさんを襲った悲劇から障害年金受給につなげた顛末

【みんなのねんきん】岡田社労士

岡田真樹

みんなのねんきん社労士法人代表

ここだけの話、今回はこんなお話です

精神障害による障害年金では、「知的障害も対象となります。

知的障害の障害年金手続きでは、「うつ病」や「統合失調症」と違い、生まれながらの傷病となるため、初診日を証明する書類が求められることがありません。

つまり、知的障害における手続きで初診日が問題になることはないのですが・・・。

今回は、みんなのねんきんで相談を受けた知的障害にまつわる事例をコラムにまとめてみました。

メモ

障害の原因となった傷病について、初めて受診した日が「初診日」です。この日を基準に年金制度に入っていたか、保険料をきちんと納めていたかが判定されます。

ここだけの話、こんな事例でした

知的障害における障害年金の手続きとは

知的障害の障害年金手続きは、生まれながらの傷病、つまり初診日=出生日として取り扱うため、二十歳前傷病の障害基礎年金」として請求することになります

メモ

「二十歳前傷病の障害基礎年金」とは、20歳前の国民年金に加入できない時期の障害に対する所得保障です。保険料を納めることなく受け取れる特殊な障害年金です。

ここで、

知的障害は、障害年金の認定基準においても

知的障害とは、知的機能の障害が発達期(おおむね18歳まで)にあらわれ・・・

と記されており、障害年金の対象となる障害となることがわかります。

知的障害は、幼少期から症状が確認され、医療機関で受診・療育手帳を取得し、症状に応じた福祉サービスを受けているケースが多いようです。

メモ

療育手帳は、知的障害があると判定された方に交付される手帳です。療育手帳を持っていると障害福祉サービスや、各自治体や民間事業者が提供するサービスを受けることが出来ます。

知的障害の障害年金手続きでは、療育手帳の写しを提出します。

なぜなら、

療育手帳により、「知的障害」=「二十歳前傷病の障害基礎年金」として取り扱ってもらえるためです。

とはいえ、

全ての方が、幼少期から、医療機関に受診したり、療育手帳を取得しているわけではありません。

弊社に寄せられた、Aさん(50歳代)のご相談は、知的障害の「疑い」があるだけで、療育手帳をお持ちでない方だったのです・・。

相談時の状況は

Aさんは幼少期より、発語の遅れや勉強面からも知的障害の疑いはありました

しかし、ご両親は病気を認めず医療機関に行かせてもらえませんでした。

小学校や中学校では、養護学校、特別支援学級ではなく普通学級でした。

学校側から受診を勧められても、家族からの協力はありませんでした。

Aさんは「何をしても上手くいかなかった」「状況は変わらなかった」とおっしゃっていました。

そこでAさんは家を出て、生活保護を利用しようとしたとき、市役所の担当者より受診を勧められ、初めて精神的な病気があることがわかったのです。

すでに、30代後半の年齢でした

受診した医療機関では、「うつ病」と診断されました。

しかし、知的障害の疑いはありましたが、当該医療機関は知的障害の検査を行っていません。

そこで、この医療機関から何度も知的障害の検査を受けるよう指示がありましたが、障害の特性により、周囲の協力が無いままご自身では受けられなかったのです。

そこから10年程度同じ状況が続いているとのことでした。

弊社に「障害年金を受給したい」との相談があった時はこのような状況だったのです

うつ病では手続きは無理、「知的障害」しか手段が無い・・

Aさんが受診している医療機関では、「知的障害」として診断が確定していません。

しかし、「うつ病」は、病名として確定診断されていました。

そこで、

確定している「うつ病」での障害年金申請ができないかまず考えました。

最初に問題になるのはうつ病と診断される前に、保険料を納めていたかどうか、未納の期間が問題になります。

ここで、

生活保護を利用していれば、その間、年金保険料は免除になります。

初診日の前日までに免除を申請していれば、障害年金の要件を満たした期間とされます。

長年、生活保護を利用されているなら、この要件を満たせているはず・・・。

そこで、年金記録の確認をすると、

初めてうつ病と診断された日と生活保護の利用開始日は、同じ月だったのです。

うつ病と診断される前に保険料が免除されていれば問題なかったのですが、うつ病と診断されてから保険料が免除されています。

うつ病と診断される前の期間は全て未納となっていました。

障害の特性により、ご自身で国民年金の納付や免除申請は困難。家族や周囲の方からの協力も得られない状況だったからです。

このまま「うつ病」を請求傷病とした場合、障害年金の保険料要件を満たせないので、年金受給は不可能。

「知的障害」であることで障害年金の申請を行うしかありませんでした。

ここだけの話、何が問題なのか?

さらに、Aさんの障害年金手続きを「知的障害」で行う場合、大きな問題があったのです。

まず、

Aさんは幼少期から症状の疑いはありましたが、医療機関を受診できなかったため、療育手帳などの「知的障害」であることを証明できるものがありません。

ただ、

過去の障害年金決定の事例を調べてみると、療育手帳がなくとも、養護学校、特別支援学級の在籍証明、を提出し、「知的障害」=「二十歳前傷病の障害基礎年金」として請求ができたものがありました。

しかし、Aさんは養護学校、特別支援学級にも在籍していません。

仮に「知的障害」との確定診断がされたとしても、「知的障害」での症状が長く続いていたことの証明をどのように行えばいいか・・。

療育手帳もなく、養護学校等に在籍したこともなく、知的障害の経歴をどう証明するのかが問題となります。

ここだけの話、「みんなのねんきん」はこう対応した

Aさんの事情に合わせた対応が功を奏する

とにもかくにも、Aさんには知的障害の検査を受けてもらう必要があります。

現在の通院先からも、当該検査を受けるよう何度も指示がでていましたが、本人だけでは進まなかった状況でした。

そこで、手続きの代理人である私自身が主導してAさんをサポートすることとしたのです。

まず、担当のケースワーカーに相談しました。

ご本人が通院でき、検査が可能な医療機関が近所にあるかを調べ、幸い、条件に該当する医療機関が見つかりました。

つぎに、これまでのクリニックには、紹介状を依頼し、併せて障害年金の初診の証明書も作成してもらいました。

そこからは、手続きがスムーズでした。

転院後、すぐに検査が行われ、「知的障害」の傷病名が確定。

障害年金用の診断書も作成してもらえました。

しかし、一般的な知的障害の障害年金手続きのように、療育手帳などはありません。

医療機関の証明としては、30代後半からの受診内容しかありません。

この点をどうするか・・・。

そこで、長年、知的障害を患ってきた事実を具体的に証明する方針で申請書類を揃えることとしました。

まず、幼少期の辛かった状況は最初に伺っていましたが、再度じっくり、話を聞かせていただきました。

というのも、

障害年金の手続きにおいて、これまでの病歴を時系列にまとめたもの(「病歴・就労状況等申立書」)が必要となるからです。

併せてその他の必要書類をまとめ、年金請求書を提出。

転院してから数回の受診で、障害年金の申請ができました。

ちなみに、

日本年金機構の資料によれば、知的障害にかかる病歴・就労状況等申立書の記載内容は、省略も可能とのこと(令和2年10月より)。

【みんなのねんきん】知的障害を親が認めない!幼少期のAさんを襲った悲劇から障害年金受給につなげた顛末

しかし、今回は事情が事情なだけに、省略することなく、敢えて詳細を記載しました。

実は、申請したものの、その後の日本年金機構の審査において、追加の書類を求められることも覚悟していました。

ところが、審査はスムーズに行われ、提出から2か月後には、障害年金が認められたのでした。

結果としては、「知的障害」の確定診断が50歳近くでされた場合でも、生まれながらの傷病として、幼少期から受診していた場合と同様の扱いになりました。

「知的障害」という診断名だけで申請できるのか?

ここで、

今回のケースから、医師が「知的障害」と確定さえすれば、「二十歳前傷病の障害基礎年金」の申請ができるのか?と疑問に感じました

二十歳以降に受診期間が短かったり、数回の受診だったりしても単に「知的障害」との診断名さえあればいいのでしょうか?

数回の受診・治療期間で障害状態を証明できるか?そのような状況で作成された診断書が審査において、信頼ある情報として、評価してもらえるか・・・。

ここは、注意が必要です。

当職の見解では、「知的障害」と確定診断が出ている事実のみでは、生まれながらの傷病として取り扱われる可能性が高いに過ぎないと考えます。

障害状態を証明するには、更に別の観点から事実を補強することでその障害状態を立証する必要があると理解しています。

今回のケースでは、1つ目のクリニックから初診日の証明を取得しています。

その証明には、「知的障害」と確定診断はされていませんが、10年近く診断してきた内容も記載されていました。

私の方でも、病歴・就労状況等申立書の内容を省略することなく、幼少期から「知的障害」と判断されるであろう事実を記載しました。

さらに、知的障害を裏付ける参考事実として、自分だけでは年金保険料の納付ができなかったことを書面で訴えました。

障害年金が認められるには、初診日要件だけでなく、障害状態が該当していることを証明する必要があるということ

その病名が確定している診断書はもちろん必要ですが、それに加えて病気という事実をどう立証するか

障害年金の手続きにおいて、この点は専門家ならではの腕の見せどころではないかと考えさせられたAさんの事例でした。

ここだけの話、今回のまとめです

今回は、「知的障害」の障害年金請求についてでしたが、幼少期の証明が難しいケースについて書いてみました。

ポイントは以下のとおり。

  • 一般的には知的障害は「二十歳前傷病の障害年金」として請求できる

  • 知的障害は、療育手帳、養護学校、特別支援学級の在籍証明初診日の証明となる

  • 知的障害における「病歴・就労状況等申立書」は記載省略が令和2年から可能となっている

  • 知的障害の幼少期の証明が難しい事例であったが、あらゆる可能性を追求して障害年金受給に至った

一般的には、「知的障害」は、生まれながらの傷病として、幼少期から症状が確認されているケースが多いです。

そのため、日本年金機構の審査において、「病歴・就労状況等申立書」の記載の省略も認められているわけです。

障害年金の申請は、「この病名は、こう」と手続き方法を決めつけてはいけません。

請求者の状況に応じて、最善の方法を考えることが重要であり、個別の状況に即して請求方法を工夫したのが功を奏しました。

ただ、

障害年金を受給できたとはいえ、Aさんのこれまでの辛い状況には胸を締め付けられる思いでした。

家族や周囲の無理解で、大人になるまで病院にも行かせてもらえなかったわけですから・・。

その状況が今回の障害年金によって、少しでも改善できるのでしたら、なんとしてでもやり遂げたい、そんな想いで手続き代行を引き受けたのは確かです。

Aさんは「もっと早く、障害年金を知っていたら・・・」ともおっしゃっていました。

障害年金の制度が知れ渡り、必要な方が受給できるよう、専門家として何ができるのか、改めて考えさせられた出来事でした。

出典・参考にした情報源

日本年金機構 病歴・就労状況等の提出にあたって

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岡田真樹 みんなのねんきん社労士法人代表

大学卒業後メーカーに勤務。仕事中に左手を機械に巻き込まれ、親指以外を失う大ケガを負う。転職後、障害者雇用の枠で聴覚障害・発達障害・精神障害・身体障害を持つ方々と一緒に働いた経験を持つ。障害年金の手続きを自ら行なったことから年金制度に興味を持ち、社会保険労務士試験に合格。2020年よりみんなのねんきん社会保険労務士法人で実務の最高責任者を担い、2021年に代表就任。

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