ここだけの話、今回はこんな話です
2023年6月26日、社会保障審議会年金部会が開催されました。
今回は厚生労働省のサイトからダウンロードした審議会の資料をもとに、そこで取り上げられた障害年金制度に絡んだ現状をご紹介します。
併せて、年金実務に携わる私の視点で、障害年金制度の課題を指摘していきます。
これらの課題に対処し、今後の障害年金制度がより良いものになればと思っています。
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ここだけの話、社会保障審議会で障害年金が取り上げられました
みなさんは社会保障審議会をご存知でしょうか。
この審議会では、「社会保障に関する重要事項を調査審議」したり、「厚生労働大臣又は関係行政機関に意見を述べ」ることを目的とした会です(厚生労働省設置法第7条)。
この社会保障審議会の第5回年金部会において、障害年金制度が取り上げられました。
これまでの年金部会では、主に、少子高齢化にどう年金制度を対応させるかという議論が多く、障害年金が取り上げられることはあまりなかったと記憶しています。
当日は、YouTubeで中継されたとのことでしたが、業務のため、視聴することができませんでした(アーカイブも見れないようです)。
障害年金制度が取り上げられたということは、今後、議論に沿った制度の改正があり得るということ。
実務に携わる私からすれば、これは見逃すわけにはいきません。
今回は、ウェブ上でダウンロードできる当日の配布資料から、将来の障害年金制度を考えてみます。
ここだけの話、こんな事が審議されていました
配布資料の内容はこちら
配布資料は、厚生労働省の以下のページから入手することができます。
-
第5回社会保障審議会年金部会
続きを見る
この中で、障害年金に関する資料は、
- 資料2 障害年金制度
- 資料3 百瀬委員 提出資料「障害年金制度の見直しに係る課題と論点」
- 資料4 福島委員 提出資料「障害年金の制度改正に向けた中長期的課題」
となります。
以下、これらの資料から私が着目した箇所をご紹介します。
私はここに着目した!
着目1 障害年金受給者の現状
まずは、障害年金の受給者数についてご覧ください。
受給者数は、右肩上がりに増加しています。
特に、青線で示された障害基礎年金受給者の増加が目立ちます。
なんと、2002年からの約20年で、154万人から220万人へ70万人も増加しています。
弊社の相談実績に照らし合わせてみても、専業主婦の方、学生時代に発症した方、退職後の国民年金期間に初診日(初めて医師に診断してもらった日)がある方の障害基礎年金に係る相談は障害厚生年金よりも多い印象があります。
着目2 受給者増加の原因は精神障害・知的障害
受給者増加の原因はどこにあるのでしょうか。
画像右側の太赤字部分に着目してください。
障害年金を請求する際に添付された診断書別の新たに受付された件数・割合では、「精神障害・知的障害」が全体の7割を占めており、直近3年間の推移でも増加が著しくなっています。
一方、
糖尿病や心臓疾患などの内部障害、肢体の障害などの外部障害は、横ばい。
つまり、
「精神障害・知的障害」の増加が障害年金受給者増加につながっているわけです。
弊社の相談実績に照らし合わせても9割近くが「精神障害・知的障害」です。
特に「うつ病」の相談数が多いです。
これら統計のデータは弊社に寄せられる相談の実態と合致しています。
着目3 障害年金受給者の就労状況
障害年金受給者の就労状況についての資料も興味深いものがありました。
このグラフは2009年と2019年の比較で年齢階級別就業率を示すものです。
どの年齢層においても点線(2009年)よりも実線(2019年)が上に来ており、過去10年で就業率が上がっていることがわかります。
ただし、30歳代までは50%以上の就業率ですが、その上の年代になってくると、5割を切って少なくなっています。
さらに「本人の仕事による年間収入」の表を見てみると、就労できていても全体の約47%が年収50万円未満となっています。
就労できても収入は厳しい現実であることがわかります。
最後に、障害の種類別の就労率を見てみると、全ての種類で10年前と比較して就労率が高くなっているのがわかります。
社会全体で障害者雇用の意識が高まっていることが理由と考えられます。
ただ、障害の種類で比較した場合、依然として「精神障害」の就労率が低いのが気になります。
改善しているとはいえ、3割台の就労率に留まっています。
私が考える障害年金制度に関する課題
資料2の後半にはこれまでの審議会で出た意見が1ページだけですが紹介されています。
また、資料3、資料4には、個別の委員による意見が挙げられています。
ここからは、審議会で共有された課題はみなさんで資料を読んでいただくとして、年間1,000件以上の障害年金の相談に応じる実務家の視点で障害年金制度に対する課題を挙げていきます。
初診日について
- 古い初診日の証明が難しい
- 退職してしまうと厚生年金加入期間が反映されない
- 知的障害の初診日=出生日とされる矛盾
1 古い初診日の証明が難しい
1については、年金請求実務における課題。
初診日が古くなればなるほどその証明が難しくなります。
例えば、
精神障害の場合、発症当初は症状が軽いケースが多いです。
このようなケースでその後悪化した場合には、最初の初診日についての証明が求められます。
時には10年以上前に遡ることもあります。
ところが、医師法では、5年経過するとカルテなどの当時の診療記録の破棄が許されています。
そのため、初診日の証明が困難になります。
このように、年金とは別の法律で5年経過による診療記録の破棄が許される一方で、障害年金の請求によっては、5年以上前の診療の証明が求められることには、矛盾があると感じます。
2 退職してしまうと厚生年金加入期間が反映されない
2については制度面の課題。保障の格差の問題です。
例えば、就労中は無理して病院に行くことも我慢、無理がたたって退職、その後治療を受けたケース。
このあとに障害状態となったとしても、国民年金(障害基礎年金)の請求しかできません。
既に退職してしまっているので、厚生年金の加入は終わっています。
これが厚生年金加入中に治療を受けていれば、障害基礎年金に加えて、障害厚生年金も請求できるのです。
障害厚生年金は在職中に初診日がなければ支給されないというルールだからです。
また、
障害厚生年金は在職中の給料の水準によって決まるので一律にいくらとは言えませんが、年間で数十万円にのぼることもあります。
このように、どんなに厚生年金の加入期間が長くても、一旦退職してから治療を開始するとその傷病による障害厚生年金は全く請求できません。
障害厚生年金を受給できないことによる保障の格差は、社会保障の制度として、公平の観点から問題があると考えます。
メモ
この点、退職後一定期間内に初診日がある場合は障害厚生年金の対象にするよう改正に向かうようです。「一定期間」がどの程度になるのかは執筆時点では不明です。
3 知的障害の初診日=出生日とされる矛盾
3についても2と同様、制度面の課題です。
例えば、知的障害には軽度知的障害と診断される方もいます。
その方の中には、大人になるまで障害を指摘されない方もいます。
また、就職し苦労しながらも労働される方もいます。
障害年金では、知的障害の初診日は、出生日と解釈されます。
とすれば、初診日において厚生年金に入っていないため、国民年金の障害基礎年金しか請求できません。
つまり、出生後、どれだけ厚生年金に加入しても知的障害を理由とした障害厚生年金は受け取れないのです。
厚生年金に強制加入してその義務を果たしているのに、請求できる権利は障害基礎年金のみ。
これでは義務と権利のバランスがおかしいと感じます。
年金水準と障害者の就労について
- 老齢年金と同じ年金水準で良いのか
- 精神障害者の就労割合は増えていない
1 老齢年金と同じ年金水準で良いのか
1については、年金水準の課題です。
国民年金制度からは老後の年金として「老齢基礎年金」、障害の年金として「障害基礎年金」が受け取れますが、両者は同じ金額(約80万円)です。
果たして同じ金額で良いのでしょうか。
例えば、精神障害の中には、学生時代に不登校になり、発症するケースがあります。
その後、就学困難、就労困難となれば、障害年金だけが生活費の拠り所となります。
私も左手に障害があるのでわかりますが、生活費の他に、障害が残ればさまざまな費用がかかります。
バスや電車に乗れないためにタクシーを利用するしかないという方もいるでしょう。
一方、老後であれば、年金に加えて、貯金しておく・資産形成しておくなどの準備ができます。
また、老後の年金は繰下げて年金額を増やす手段もあります。
障害年金は一度権利が生じると、状態が悪化すれば別ですが、生涯に渡って同じ水準の年金額を受け取るしかありません。
このように老後の年金と比較してみて、障害年金の保障内容が十分なのか、老後の年金と同じ水準で良いのか疑問があります。
2 精神障害者の就労割合は増えていない
2については、障害を持ちながら働くことについてです。
急増している精神障害ですが、障害の種類別で見た場合、約35%しか就労できていないのは上の現状で見たとおりです。
仮に就労できたとしても就労から得られるお金は、非常に低額という現状にも着目しました。
つまり、障害年金と自身で稼いだ分を合算しても生活は厳しいと言わざるを得ません。
また、
就労に関していえば、国が事業主に障害者の雇用を義務付ける障害者雇用促進法があります。
平成30年4月から同法で対象とする障害者に「精神障害者」が含められました。
しかし、障害者の中でもっとも多い、精神障害者の就労割合は増えていません。
国も事業主も障害者雇用の現実に鑑みて、障害者雇用の意識を変えて欲しいと感じます。
知られていない障害年金制度と対する偏見
- 障害年金制度を知らない人が多い
- 障害年金制度への偏見
1 障害年金制度を知らない人が多い
1については、そもそも障害年金制度を知らない人が多いと感じます。
弊社への相談においても非常に多いです。
例えば、
障害年金の制度を知らないために、「保険料を未納にしてしまった、知っていたらちゃんと納めたのに」という声を聞きます。
このことは、私は個人的には、一番の課題ではないかと感じます。
マスコミも雑誌も年金といえば、老後の年金ばかり。
年金制度への不安を煽るばかりで、さも保険料を納めるのは無駄だと言わんばかりです。
それが保険料の未納に間接的に繋がっています。
保険料を納めることで、それが老後のためにも、障害のためにも、死後残された配偶者や子どものためにもなるということが国民に伝わっていません。
私自身も障害年金に携わる専門家の一人として、障害年金による公的な保障をしっかり周知していきたいと思っています。
2 障害年金制度への偏見
2については、以前のコラムで取り上げたことがあります。
-
障害年金で不利益受ける?7つの誤解を解き明かす 前編
ここだけの話、今回はこんな話です 弊社では障害年金の相談を受けて要件に該当していると判断した場合は、その申請を勧めるのですが、なぜか躊躇される場合があります。 今回はこれまで受けた実際の相談から、「障 ...
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障害年金を受け取ることで差別や偏見を受けるのではないかと考え、申請をためらう方がいます。
世間で事件が起きた際、容疑者に「精神疾患がある」「精神科への入院歴・通院歴がある」と報道されることがあります。
そのような報道が精神障害に対する偏見を大きくしていると感じます。
障害者への偏見をなくし、障害年金を必要とする方が、堂々と申請できるような社会にしていかないといけません。
ここだけの話、今回のまとめです
今回は、社会保障審議会で障害年金が取り上げられましたので、その資料で気になった点を取り上げてみました。
ポイントは以下のとおり。
- 精神障害・知的障害による障害年金受給者が増加し、現在は全体の7割を占めている
- 障害年金受給者の就業割合は増加しているものの、年間収入が50万円未満が半数と低水準
- 初診日証明の困難さ、年金水準の低さ、就労しても厳しい生活など数々の課題があるものの、私が思う一番の課題は障害年金制度が知られていないことである
障害年金制度が創設された当時と現在では、精神障害の割合が大きくなっています。
この現状に合わせた制度改正が必要と感じます。
特に精神疾患は、発病から初めて診断を受け、障害の状態に該当するまで長期間になることが普通です。
弊社が扱う手続代行においても、このようなケースは実に多いです。
そのため、初診日証明が難しかったり、厚生年金に加入していた期間が反映されなかったり・・・。
今、私が感じる課題とまとめてみました。
現在の実態に応じて、本来、障害年金が必要な方も障害年金が支給されるようになることを望みます。
出典・参考にした情報源
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第5回社会保障審議会年金部会
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岡田真樹
みんなのねんきん社労士法人代表