ここだけの話、今回はこんな話です
弊社では障害年金の相談を受けて要件に該当していると判断した場合は、その申請を勧めるのですが、なぜか躊躇される場合があります。
今回はこれまで受けた実際の相談から、「障害年金を受給することがデメリットになる」という7つの誤解をご紹介します。
1つ1つをご紹介しながら、その誤解を解いていきましょう。
ここだけの話、何が問題なのか
障害年金は障害をお持ちの方の生活を支援するために国が用意した社会保障制度です。
障害が続く限り2ヶ月に1回、年金が振り込まれるため、ハンデを負っても安心して生活できます。
このように障害者にとって心強い障害年金ですが、なぜか申請に後ろ向きな方に出会うことがあります。
その理由を伺うと、「障害年金ってデメリットがあるでしょう・・・」とのこと。
ご本人の他に、ご家族がその受給に後ろ向きの場合もあります。
このような場合、ご本人は障害年金受給の希望をしていても、ご家族が反対して申請が進まないことがあります。
障害年金を受給することになにかデメリットがあるのでしょうか?
実は、障害年金のマイナスな印象の多くは、誤った情報による勘違い・誤解であることがあります。
私がこれまで実際に遭遇した7つの誤解を列挙すると、以下のとおり。
- 障害年金を受給していることが周囲に知られてしまう
- 運転免許が取り消しになる
- 年金機構から会社に連絡がいく・仕事ができなくなる
- 将来の老後の年金額が減る
- 支給された年金の使い道が決められている(使途が制限される)
- 確定申告が必要になる
- 障害年金の審査として家に審査員が来る(資産が調べられる)
結論、全て誤解です。
どこが誤解なのか、そこが問題となります。
ここだけの話、みんなのねんきんではこう考える
今回は、前編として相談の1~3について、確認していきましょう。
- 障害年金を受給していることが周囲に知られてしまう ←今回
- 運転免許が取り消しになる ←今回
- 年金機構から会社に連絡がいく・仕事ができなくなる ←今回
1.障害年金を受給していることが周囲に知られてしまう
実はこれは多くの方から相談があります。
まず、
障害年金を受給していても、ご自身が周囲に話さない限り、知られることはありません。
私自身も指を失うことで障害年金を受給していますが、周囲には知られることはありませんでした。
年金が振り込まれる預金口座の通帳を見られたり、日本年金機構から郵送される通知を見られたりすれば話は別ですが、そのようなことが無い限り障害年金を受給していることが知られることはありません。
つぎに、
仮に周囲に知られたとして、その周囲の反応が怖いというご相談もあります。
つまり、差別や偏見を受けるのではないかということです。
この点、
私自身も身体障害者で偏見があると感じる事がありますが、特に「精神障害」については、身体障害以上に偏見がありそうです。
世間で事件が起きた際、容疑者に「精神疾患がある」「精神科への入院歴・通院歴がある」と報道されることがあります。
そのような報道が精神障害に対する偏見を大きくしているのかもしれません。
この誤解の根底にあるものは「障害年金を受給していること」=「精神障害であること」とつながり、周囲の偏見・差別への怖さがあるのだと思います。
ここで大事なことは、「障害年金を受給していること」と「精神障害者であることによる周囲の反応」は、別の問題として捉えなくてはいけません。
障害年金を受給することは国民に認められた当然の社会保障の権利であり、要件を満たせば誰でも受給できます。
条件に合うならば堂々と権利行使すべきです。
一方、精神障害者であることに対する周囲の反応は、障害年金の受給とは別に、社会全体で意識を変えていかなければいけない問題です。
国も2016年4月に「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(障害者差別解消法)」を制定・施行し、障害者への差別の禁止が求められることになりました。
全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に向け、障害を理由とする差別の解消を推進すること
(障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律 第1条 抄)
法律ができたからといって、差別偏見がいきなりなくなるわけではありません。
ただ、近年のダイバーシティ(多様性)やSDGsなどの意識の高まりから、差別偏見は少しずつ良い方向に向かっているはずと私は思うのです。
最後に、
実際の相談現場では、相談者の周囲の状況をお聞きして、その方にあった対応法を考えていきます。
周囲から理解を得られる状況なのか、理解を深めるにはどのようにしたらよいか・・・偏見・差別につながる問題点を整理することが重要です。
そして、
「障害年金を受給していること」と「精神障害者であることによる周囲の反応」は、別の問題であることを丁寧に説明すると、申請へ前向きになってくれることはよくあります。
ここがポイント
「障害年金を受給していること」と「精神障害者であることによる周囲の反応」は別問題。条件に合うなら社会保障の権利を行使すべきである。一方、社会全体でハンデがある方に対する意識を変えていくべき
2.運転免許が取り消しになる
こちらは、完全に勘違い・思い違いによるものです。
「障害者は車を運転してはいけない」と考えるのでしょうか。
障害の箇所、程度によっては、車の運転が不可となる場合がありますが、運転ができるかできないかの判断において、障害年金の受給は関係ありません。
ですので、障害年金が決定されたからといって、免許が取り消されることはありません。
たた、
個人個人の症状により医師が診断を行い、運転しないよう指示が出ることになります。
また、
運転免許の取り消しについては、公安委員会が判断します。
その際も医師から公安委員会に届け出が必要です。
現在では、肢体障害の方だけでなく聴力障害の方にも運転免許は認められています。
医師が運転は危険と判断しない限り、運転免許の取り消しは、行われません。
ここがポイント
障害年金の受給が決まったことで運転免許が取り消されることはない
3.年金機構から会社に連絡がいく・仕事ができなくなる
まず、
「1」でも説明したとおり、障害年金を受給していることは、自身からお話しない限り、周囲にはわかりません。
また、障害年金を審査する日本年金機構から会社に連絡が行くこともありません。
決定の通知は、本人にのみ直接されます。
ただ1点、障害年金を受給していることを会社に報告するケースがあります。
それは、健康保険制度において傷病手当金を受給する場合。
傷病手当金は病気や怪我により、3日休むと4日目から1日あたりの給料の3分の2が支給される所得保障制度です。
この「傷病手当金」と「障害厚生年金」は、同じ病気を理由に二重に受給できないようになっています。
そのため、傷病手当金の申請時において、障害年金を受給していることを連絡しなくてはいけません。
ケースとしては、障害年金を受給開始後に、就労するようになった(社会保険加入)方が休職する場合が考えられます。
つぎに、
「仕事ができなくなる」ことについては、勤務先である事業主が考えなければいけないことです。
つまり、事業主は従業員のその症状によって仕事の内容を考えなくてはいけません。
例えば、障害者雇用促進法では、
- 障害者であることを理由に障害者を排除すること
- 障害者に対してのみ不利な条件を設けること
- 障害のない人を優先すること
を禁止しています。
併せて、事業主には労働者の障害の特性に配慮して、必要な施設の整備、援助を行う者の配置その他の必要な措置を講じる義務が生じます。
したがって、これらの規定から障害年金を受給していることを理由に会社が仕事を行わせないことは、法律違反になります。
もし、仕事において不利益を受けそうになっても、障害者雇用促進法を理由に違法である旨主張できます。
ここがポイント
年金機構から会社に連絡がいくことはない。障害年金を受給したことで事業主が仕事を行わせないことは違法である
ここだけの話、今回のまとめです
今回は、障害年金の申請をためらう7つの誤解のうち3つを解説しました。
ポイントは以下のとおり。
-
「障害年金を受給していること」と「精神障害者であることによる周囲の反応」は別問題。条件に合うなら社会保障の権利を行使すべきである。一方、社会全体でハンデがある方に対する意識を変えていくべき
-
障害年金の受給が決まったことで運転免許が取り消されることはない
-
年金機構から会社に連絡がいくことはない。障害年金を受給したことで事業主が仕事を行わせないことは違法である
相談される皆さんが心配される気持ちはよくわかります。
私も「障害者」となった時の気持ちを思い出すと、とても不安でした。
今回のコラムは障害者の立場からの意見であることも参考にして欲しいと思います。
さて、次回は後編として残り4つの誤解について解説していきます。
岡田真樹
みんなのねんきん社労士法人代表