今回のコラムは年金実務者向けの内容です。
ここだけの話、今回はこんな話です
みんなのねんきん社労士法人では、日々、様々なケースで障害年金請求を行っています。
ここだけの話、必要書類の提出にあたり、すんなり行かないことが少なくありません。
キャリアを積んだ私でも、初回の書類提出時点では判断が難しいものもあり、日本年金機構から書類が戻ってくること(これを「返戻」といいます)を覚悟して提出することもあります。
メモ
返戻とは、日本年金機構に提出した書類の内容や添付書類に不備があったため戻されることです。対応次第では年金受給につながらないこともあるので細心の注意が必要です。
過去の事例や不服申立てによる裁決例に照らし合わせても、返戻による対応方法が異なります。
そんなとき、実感させられることがあります。それは、
障害年金手続きは、対応方法が個別のケースで異なるということ。
それが、障害年金手続きを難しくする原因ではないかと思うのです。
そこで、
今回は最近1年間の返戻対応で、私が特に印象に残った事例を紹介したいと思います。
他の実務担当者の参考になれば良いかと。
ちなみに、過去2021年にも印象に残った事例をご紹介していますので参考にしてください。
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ここだけの話、こんな症状・こんな事例です
事例:うつ病・てんかん、精神疾患が複数のケース
今回取り上げる事例は、うつ病とてんかんで悩むAさん(20歳代)の事例となります。
精神疾患が複数にわたる場合の障害年金請求をどのようにしたか、一緒に考えていきましょう。
こんな症状でした
当初、Aさんのご相談は「うつ病」での障害年金の受給ができるか?というものでした。
社会人になられてから、仕事の様々なストレスから「うつ病」を発症した方です。
また、
「うつ病」の治療を開始してから数か月後には、「てんかん」による発作も出現しているとのこと。
これまでのAさんの病歴を確認すると、過去に「てんかん」で治療を受けたことがわかります。
中学から高校まで、「てんかん」発作があり治療を受けていたのです。
その後は、発作もなくなり、無事に社会人として就職できたとのことでした。
「うつ病」が発症するまでは、高校生以来、医療機関での治療を受けていなかったのです。
ここだけの話、こんな問題点があったのです
Aさんの以上の症状から、
弊社では「うつ病」と「てんかん」による複数の傷病名による障害年金請求を考えました。
ところが、2つの点で問題が生じたのです。
問題1 初診日はいつか?
障害年金を請求するにあたり、初診日を明らかにしなければなりません。
初診日とは
障害の原因となった傷病について初めて医者に掛かった日のこと。障害年金を受け取るためにはこの日に年金制度に加入していたか否か、加入していたとして、国民年金か厚生年金か、この日で判断することになります
「てんかん」の初診日である中学生時代として請求するか、「うつ病」の初診日である社会人時代として請求するか。
問題点の1つ目はどちらを初診日として請求手続きするかということです。
障害年金は、人生で初めてその症状について病院に行った日(初診日)に加入していた制度の障害年金を請求することになります。
ここで、
初診日に60歳未満で自営業や無職など会社勤めではない場合は、国民年金に加入しているはず。
この場合は、国民年金制度の「障害基礎年金」を請求します。
逆に、
初診日に70歳未満でお勤めされていた場合、多くは厚生年金に加入します。
この場合は、厚生年金制度の「障害厚生年金」を請求します。
障害厚生年金の場合は、保険料が高いことや労働者を保護する側面から障害基礎年金よりも金額等の面で有利になっています。
さて、
ここでAさんについて考えます。
仮に、Aさんの中学生時代が初診日となると、国民年金制度の「二十歳前傷病による障害基礎年金」となります。
20歳未満では通常は国民年金に加入していませんが、そのような方でも福祉的な観点から障害年金を受け取れる仕組みとなっています。
逆に、社会人時代が初診日となると、厚生年金制度の「障害厚生年金」になります。
Aさんは、20代で若く、今後障害年金を受給できる期間が長くなる可能性があります。
障害基礎年金か、障害厚生年金か、年金額の違いが、将来的に大きな差になり得ます。
また、
これまでの経験上、「うつ病」と「てんかん」の症状による障害状態は、2級相当と判断される可能性が高いです。
病状の実態をみても、社会人になってからのストレスが現在の症状の原因となっていることは確か。
とはいえ、
社会人時代の受診日を初診日として請求しても問題ないのでしょうか?
「人生で初めてその症状について病院に行った日」と言えなくもないからです。
問題2 相当因果関係はあるか?再発か?継続か?
問題点の2つ目を考えていきましょう。
初診日が確定したとして、つぎに、現在の症状が初診日の病気と関連性があるのかが問われます。
具体的には「相当因果関係の有無」「再発」「継続」を考えることになります。
まず、
「相当因果関係」がある場合は、「前の疾病や負傷がなかったら、後の疾病は起こらなかったであろう」と認められる場合であり、この場合、前と後の傷病を同じ一つの傷病と考えます。
つぎに、
「再発」は、過去の傷病が治癒して、再び同じ傷病が発生した場合、前と後の傷病を別の傷病と考えます。
最後に、
「継続」は、傷病が治癒したと認められない場合になり、治療期間が空いていても、同じ一つの傷病が続いていると考えます。
今回のケースでは、「相当因果関係あり」「再発」「継続」の、どの考え方を用いればいいのでしょうか?
ここだけの話、「みんなのねんきん」はこう手続きしました
悩んでいても仕方ありません。まずは過去の事例を調査しました。
すると、「てんかん」と「うつ病」は、「相当因果関係あり」とする事例がありました。
この事例に照らし合わせると、今回のケースでは、中学生時代が初診日となりそうです。
しかし、
「てんかん」は、高校生時代には、症状がなくなっていいます。
「相当因果関係」の考え方では、「うつ病」が「てんかん」を理由に発症していることが必要に思えます。
そこで、
「てんかん」の症状がなくなっていたこともあり、「再発」の考え方で、初診日を整備して請求を行いました。
つまり、
社会人時代を初診日として障害厚生年金を請求したのです。
請求傷病は、「うつ病、てんかん」を一つの大きな精神障害としました。
実は、初診日の判断は、医学的要素が多く、我々専門家でもその判断は難しいのです。
ここで、
厚生労働省が行政内部に向けて発する通達では、「知的障害や発達障害と他の精神疾患が併存している場合の取扱い」として示されているものがあります。
前発疾病 | 後発疾病 | 判定 |
発達障害 | うつ病 | 同一疾病 |
発達障害 | 神経症で精神病様態 | 同一疾病 |
うつ病 統合失調症 |
発達障害 | 診断名の変更 |
知的障害(軽度) | 発達障害 | 同一疾病 |
知的障害 | うつ病 | 同一疾病 |
知的障害 | 神経症で精神病様態 | 別疾病 |
知的障害 発達障害 |
統合失調症 | 前発疾病の病態として出現している場合は同一疾病 |
知的障害 発達障害 |
その他精神病 | 別疾病 |
(出典:「知的障害や発達障害と他の精神疾患が併存している場合の取扱い」より筆者作成)
ただ、今回の事例ように「てんかん」と「うつ病」についての取扱いは、見つかりませんでした。
結局、Aさんの社会人時代の初診日として障害厚生年金を請求したものの、どんな物言いがつくか、戦々恐々。
「初診日は中学生時代である!」と返戻があるかもしれませんし、審査側から直接問い合わせがあるかもしれなかったからです。
(後半へ続く・・)
ここだけの話、今回のまとめです
今回は、複数の精神疾患がある場合の障害年金請求について、請求書類を提出したところまでをまとめました。
- 複数の疾病がある場合、初診日の判断が難しくなる
- 現在の症状が初診日の病気とどう関連性があるのか問われる
- 「相当因果関係あり」は、「前の疾病や負傷がなかったら、後の疾病は起こらなかったであろう」と認められる場合で、前と後の傷病を同じ一つの傷病と考える
- 「再発」は、過去の傷病が治癒して、再び同じ傷病が発生した場合、前と後の傷病を別の傷病と考える
- 「継続」は、傷病が治癒したと認められない場合になり、治療期間が空いていても、同じ一つの傷病が続いていると考える
今回のコラムではAさんのご相談から弊社がどのような判断のもと障害年金請求に至ったか、その問題点を洗い出しました。
次回の後半は解決編。
果たして返戻はあったか否か(「返戻」のコラムなので、もちろんありましたけど・・)。
みんなのねんきん社労士法人の運命は如何に・・。
次回をお楽しみに。
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岡田真樹
みんなのねんきん社労士法人代表