ここだけの話、今回はこんな話です
精神障害で障害年金を受け取る人が近年増えています。
精神障害は発症から長期にわたることが多いので、あとから障害年金の手続きをする場合に、ある問題が生じやすいのです。
その問題とは初めて医師の診断を受けた日(初診日)の証明を受けるのが困難な場合があるというもの。
今回は、初診の証明を受けるのに大変苦労したケースをご紹介します。
ここだけの話、こんな症状・こんな事例です
電話でみんなのねんきんにご相談をお寄せ頂いたAさん。
40代の方で、重度のうつ病、生活もお仕事も難しい状況です。
30代で発症し、10年以上、医療機関で通院・治療を行ってきてました。
発症当時は、アルバイトをしていましたが、厚生年金には加入していませんでした。
そこで、国民年金制度の障害基礎年金のみを申請していくことになります。
しかし、ご自身では申請が難しい、どうすれば良いかとの相談だったのです。
ここだけの話、何が問題なのか
2つの形がある障害年金の請求方式
ここで、
障害年金を受け取るための原則ルールは、初診から1年6カ月経過した時点(障害認定日)で、法律で定める障害状態に該当している必要があります。
原則の障害認定日における障害年金請求なので、「障害認定日請求」といいます。
したがって、
この障害認定日時点において、障害の状態が軽い場合は、障害年金を請求できません。
ところが、
その後において、症状が重くなり、法律で定める障害状態に該当すれば、1年6ヶ月時点ではなく、現在の障害状態を証明して、例外的に年金が認められます。
この場合、後から重症化した障害に対して年金請求をするので「事後重症請求」といいます。
このように2つの請求方法があるのですが、どちらの場合でもあっても、初診時の病状を証明する書類が必要です。
それが何年も前であってもです。
すると、
発症から長い期間が経過してから障害年金の申請をする場合に困難が生じるのです。
初診日の証明が困難になりがちな精神障害
精神疾患による障害年金の申請が難しい理由は、ズバリ「初診日の証明が難しいケースが多い」ことにあります。
というのも、
うつ病など精神障害の場合、最初は状態が軽くても、発病から10年以上経過してから悪化することがあるからです。
その後に事後重症請求を行おうとしても、10年以上前の初診日の証明が求められるため、その証明書類の取得が難しいことが多々あるのです。
今回のAさんも発症して10年以上経過していたため、初診日の証明が難しいケースでした。
社会保障審議会でも取り上げられた初診日の証明の問題
なぜ時間が経過すると初診日の証明が難しくなるのでしょうか。
医療機関で診断を受ければ、診療録が残るはずです。
ところが、
これら診療録などの記録の保存期間は5年と決められており、それより前の期間になってしまうと、医療機関側に記録が残っていないことが多いのです。
記録がなければ医療機関も証明書類を作ることができません。
また、そもそも初診の医療機関が廃院している場合もあります。
このような事情があるため、時間が経過してしまうと初診日の証明が難しくなってしまうのです。
この問題は、厚生労働省の諮問機関である社会保障審議会でも問題として取り上げられたことがあります。
以前のコラムを参考にしてください。
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実務の専門家が考える課題はこれだ!社会保障審議会で浮かび上がった障害年金制度の今
ここだけの話、今回はこんな話です 2023年6月26日、社会保障審議会年金部会が開催されました。 今回は厚生労働省のサイトからダウンロードした審議会の資料をもとに、そこで取り上げられた障害年金制度に絡 ...
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ここだけの話、みんなのねんきんではこう対応した
立ちはだかる初診日を証明する壁
Aさんのかかりつけ医は、障害年金の申請を早目に行うべきと言っています。
しかし、初診日を証明する書類の整備ができないと、請求を受け付けてもらえない可能性があります。
ここで、
通院された医療機関が複数あれば、ひとつひとつ医療機関を確認します。
というのも、
どこかの医療機関で発症・初診の時期がわかる記録が残っていれば、証明できることがあるからです。
Aさんのケースは、初診の医療機関が廃院していました。
その後受診したのが現在の医療機関です。
ところが、かかりつけ医に初診の頃の記録を確認すると、存在しないとのこと。
そこで、
こんな場合に使える特別な方法をとることにしました。
それは、
初診日が明確でなくとも障害基礎年金の権利があると訴えることで、障害年金の請求を行う方法です。
具体的には、
- これまで加入した年金制度は国民年金の一つのみ
- 保険料の未納が全くない
という条件を満たしていることが必要です。
この場合、初診日がいつであっても、保険料の未納がないため、一定以上の納付期間を要する「保険料納付要件」は満たせます。
保険料納付要件とは
初診日の前日において、初診月の前々月までの直近1年間に保険料の未納がないか、保険料納付・免除期間の合計が全体の3分の2以上あること
そして、
国民年金制度から支給される障害基礎年金は、初診日がいつであっても年金額は一定額です。
(逆に厚生年金制度から支給される障害厚生年金の年金額は、在職中の給料に左右されるのでいつが初診日なのかは重要なのです)
したがって、
これらの状況から、事後重症請求に限っては、初診日が明確でなくとも障害基礎年金の権利があると訴えることができるのです。
そこで、
Aさんの場合を考えたのですが、数カ月だけ厚生年金の加入期間があったのです。
そのため、この方法は使えませんでした。
残された手段は一つしかなかった
残された方法として、「初診日に関する第三者からの申立書」を考えるしかありませんでした。
これは、初診の受診を確かにしていたことを家族以外の方に申し立ててもらうものです。
ただし、この方法は最後の手段です。
というのも、
医療機関が診療録などから作成する客観的な証拠ではなく、当時の関係者による主観的な申立なので、審査が通るかどうかは難しいのです。
しかも、注意することがたくさんあります。
まず、
「第三者」ですが、本人以外であれば誰でもよいというわけではありません。
友人であれば問題ありませんが、親族の場合は条件があります。
本人の三親等内の親族は、第三者に含まれません。
わかりやすく言うと、従兄弟以上離れていることが条件になります。
また、
2名以上の申立が必要とされています。
つぎに、
申立書の内容も問われます。
- ア.請求者の初診日頃の受診状況を直接的に見ていた
- イ.請求者や請求者の家族等から、初診日当時に、初診日頃の受診状況を聞いていた
- ウ.請求者や請求者の家族等から、およそ5年以上前に、請求者の初診日頃の受診状況を聞いていた
これらアからウのいずれかの状況を申し立てる内容であることが求められます。
さらに、
20歳以上の初診日の場合、「初診日に関する第三者からの申立書」だけでなく、参考資料の添付が必要とされています。
ここで、参考資料とは
- 診察券
- 入院記録
- 医療機関や薬局の領収書
- 生命保険・損害保険・労災保険の給付申請時の診断書
- 障害者手帳の申請時の診断書
- 交通事故証明書
- インフォームド・コンセントによる医療情報サマリー
- 事業所等の健康診断の記録
- 健康保険の給付記録(レセプトを含む)
などとされており、きちんとした証明書という形ではないものの、医療機関を受診したことについてのある程度の資料が求められるのです。
第三者による申立について、日本年金機構のウェブサイトも参考にしてください。
-
初診日に関する第三者からの申立書を提出するとき|日本年金機構
続きを見る
イチかバチかの最終手段で申請すると
最終的に、Aさんについては、この「初診日に関する第三者からの申立書」を提出する方針を取りました。
まず、
請求者に当時のことを知っている方がいないか確認するところから始めました。
転居もしており、なかなか見つかりませんでしたが、友人と従兄弟から協力いただけることになりました。
さらにもう一人、申立書を書いてくださる友人が見つかり、合計3名分が用意できたのです。
つぎに、
申立書の内容について、ア~ウのいずれかの内容となるように慎重にヒアリングを行い、作成を行いました。
最後に、参考資料の添付です。
ところが・・・・。
当時の診察券、お薬手帳などは、既に処分されていてみつかりません。
障害者手帳も取得しておらず、健康保険のレセプトについても5年以上前になると保存されていないのです。
結局、参考資料として提出すべき資料は何一つ見つからなかったのです。
最終的に、
初診日に関する参考資料を添付せず、イチかバチかの覚悟で年金請求書一式を提出しました。
結果は・・
無事に障害基礎年金2級が決定されました。
年金事務所からの差し戻し(返戻)も覚悟していたのですが、胸をなでおろしました。
はっきりわからなかった初診日は、「初診日に関する第三者からの申立書」で申立した初診日となっていました。
われわれが申し立てた日がそのまま初診の日として認められたのです!
ここだけの話、今回のまとめです
今回は、初診日の証明が大変困難だった事例をご紹介しました。
ポイントは以下のとおり。
- うつ病を含めた精神疾患は発病してから障害年金を考えるようになるまで時間が経過していることがある
- 発症から時間が経過していれば、初診日の確認が困難なケースがある
- 障害基礎年金を申請する場合に初診日がはっきりしなくても請求できるケースがある
- 第三者の申立書で初診日を証明する方法があるが審査が通るかどうかはわからない
今回、仮に年金が認められなかった場合は不服申立をして争うつもりでいました。
ですので、申請書類一式は不服申立まで見据えた書類作りを意識していたのです。
不服申立をする際は、その主張に一貫性があることが重要だからです。
それが今回の結果に結びついたのかもしれません。
実は、
「初診日に関する第三者からの申立書」で初診日を証明する方法は、これまでに何度か行ったことがあります。
ただ、全てが認められるわけではありませんでした。
今回のように認められた場合もあれば、認められなかった場合もあります。
参考資料の有無も影響しますが、なにより提出書類の一貫性が大切だと思います。
3名分の「初診日に関する第三者からの申立書」、病歴・就労状況等申立書、診断書、すべてにおいて、初診日の内容が一貫していたことが大きかったと思います。
また一つ大きな経験を積むことができた事案でした。
岡田真樹
みんなのねんきん社労士法人代表