「生活保護があるから年金なんて払わない」に障害年金の専門家がモノ申す

【みんなのねんきん】岡田社労士

岡田真樹

みんなのねんきん社労士法人代表

ここだけの話、今回はこんな話です

モモ
モモ
年金もらえなくてもさ、生活保護があるじゃん。だから保険料納める意味ないでしょ

年金も生活保護のどちらも、公的機関から給付金が支給される制度。

とすれば、

生活保護があるから、年金保険料を納めなくて良いのでしょうか。

そんなはずはありません。

今回は公的年金と生活保護について、障害年金手続きを行う専門家である私なりの説明をしてみます。

ここだけの話、年金と生活保護の関係って?

公的年金の存在理由

私たちの生活において、病気、失業、障害、死亡などの様々なリスクがあります。

誰もが、予想できないリスクのために、生活が困難になる可能性があります。

私自身も左手に障害がありますが、まさに予想できない事故に巻き込まれたからでした。

これらのリスクについて、個人だけで備えることに限界があります。

そこで国が用意しているのが社会保障制度。

社会保障制度のなかでも、社会全体で保険料を拠出して助け合い、リスクに遭遇してお金が必要な人を支える仕組みが「社会保険」です。

ここで、

なぜ、国は社会保障制度を整備しないといけないのでしょうか。

それは、日本国憲法で定める基本的人権の一つ、生存権を保障するためです。

1 すべて国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。

2 国は、すべて の生活部面について社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。

(日本国憲法第25条)

生存権を保障する具体的な方法・手段として「社会保障」があり、その中でも、病気・ケガ、障害、失業などのリスクに対し、公的な保険=「社会保険」で備えます。

そして、社会保険を安定して運営するためには、強制的に加入することが原則です。

強制的に加入したら、保険料も義務として強制的に納めることとなります。

これは民間の保険には無い特徴です。

また、リスクと言っても様々。

そこで、社会保険と一口に言っても、病気・ケガに備える「健康保険」、失業に備える「雇用保険」、仕事上の病気・ケガに備える「労災保険」、介護が必要な状態に備える「介護保険」などがあります。

その中でも、特に年金制度(国民年金・厚生年金保険)は、老後を迎えたときや障害を負ったとき、一家の大黒柱が死亡したときに備えるものです。

私自身が左手の親指以外を失った経験者だからこそ、声を大にして言いたい。

いつ、自身が障害を負うかわかりません。

そのために、「国民年金」「厚生年金保険」が用意されているのです。

社会保障の中の生活保護とは?

一方で生活保護は社会保険はどういう関係でしょうか?

ここで、

社会保障を考えるうえで「防貧」「救貧」という言葉があります。

「防貧」とは貧困を防ぐという読んで字のごとく、これはみんなで保険料を出し合ってリスクに備える社会保険につながります。

一方、

「救貧」とは貧困から救済するという読んで字のごとく「防貧」から漏れてしまい、貧困になってしまった方を救済することです。

つまり、

生活保護制度は、生活に困窮している方に対して、最低限度の生活を保障し、自立を助ける「救貧」制度です。

具体的に生活保護制度は、生活扶助、教育扶助、医療扶助、住宅扶助など8種類の扶助があります。

ですので、本人の資産・能力、親族の扶養、他の法律などによっても、最低限度の生活が維持できない場合にはじめて保護を受けることができるものです。

つまり、

「救貧」にこのような性格がある以上、優先されるべきは「防貧」制度である社会保険であり、自身の都合で社会保険を無視して生活保護の受給を優先させることはできません。

そして、「救貧」ですからどれだけ貧しいか詳しく調査がされます。

具体的には、資産があるかどうかの調査が徹底的にされて、わかりやすい例で言えば、車を所有することも原則できません。

仮に申請時に車を所有しているなら、まずそれを売却せよと言われます。

他には、住む場所が制限され、お金の使い道も制限されます。

こうして考えると、確かに、生活保護を受ければ金銭的な救済がされます。

ですが、生活する上で様々な制約が課され、不自由を強いられます。生活保護費は税金が原資ですから制約を受けるのは当然でしょう。

そのためでしょうか。

意外に思うかもしれませんが、生活保護を受けている方が障害年金を受給できないかという相談はよくあるのです。

生活保護を受けるデメリットを痛感しての相談だと思われます。

したがって、

生活保護があるからこれで不自由しないという話ではないのです。

生活保護を受ければいいから年金保険料なんて払わないというのは、間違った考え方です。

ここだけの話、みんなのねんきんではこう対応する

さて、

ここまで社会保障制度としての社会保険(国民年金・厚生年金)と生活保護制度をご紹介しました。

保険料は強制的に納めるべきものですが、自身が自発的にアクションをおこす必要がある国民年金(第1号被保険者)では制度の構造上、納めない状態が起きてしまいます。

逆に健康保険や厚生年金は給料から天引きされますから未納ということは通常ありません。

そして、保険料を納めない期間が続いて、弊社に障害年金受給をご相談される事例は想像以上に多くあります。

具体的には、

トラ
トラ
保険料を納めていなかったから、年金事務所で障害年金の資格がないと言われた。どうにかならないか・・・

このような相談がなくなりません。

残念ながら、あとから保険料を納めても障害年金は認められません。

保険料を納めていないという事実は変えられないのでこのようなご相談には苦慮します。

ただ、

こういった場合でも弊社では他に方法がないかを考えます。

例えば、みんなのねんきんでは以下の3つを確認していきます。

20歳前に発病・受診の事実がないか

20歳になる前は国民年金制度に加入できません。

とすれば、年金制度に入らない以上、20歳より前の傷病・障害では障害年金を受給できないように思えます。

ところが、障害年金制度はこのような場合でも障害基礎年金を受給できる余地があります。

そこで、20歳前に発病や受診の事実がないかどうかを確認し、障害年金の可能性をさぐります。

年金記録が訂正される可能性はないか

”過去に保険料を納めていたのに納付記録が間違っている”

”過去に会社勤めをして厚生年金の保険料が天引きされているはずなのにそうなっていない”

10年以上前には宙に浮いた年金記録問題が世間を騒がせました。

納付記録問題は昔の話と思いきや、この令和の時代でも未だに年金記録の訂正が続いています

年金記録の訂正請求手続|厚生労働省
年金記録の訂正請求手続|厚生労働省

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そこで、ご自身の納付記録に誤りがないか・訂正される可能性がないかを探ります。

社会的治ゆに該当する可能性はないか

「社会的治ゆ」とはざっくり説明すると、初めて診断を受けてから症状が安定して、一定の期間が経過すれば、そこで病気が治ったと解釈するという考え方です。

治ゆ=治ったと評価できれば、改めて医療機関で受診した日が初診日となる余地があります。

この考え方をとれば、保険料納付要件を満たせる可能性が出てきます。

当初考えていた初診日で保険料納付要件を満たせなくても、社会的治ゆによって別の日が初診日となれば保険料納付要件がOKとなる場合があるからです。

そこで、社会的治ゆに該当する事実がないかを探ります。

社会的治ゆは障害年金請求における難しい概念ですが、以前コラムでまとめたことがあるので参考にしてください。

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ここだけの話、今回のまとめです

今回は、年金の保険料を納めていない方の実際にあったご意見から、社会保障制度について考えてみました。

ポイントは以下のとおり。

  • 基本的人権である「生存権」を保障するために国は社会保障を整備している

  • 社会保障制度のなかでも、様々なリスクに社会全体で備える「防貧」制度が社会保険である

  • 社会保障制度のなかでも、「救貧」に対応するのが生活保護制度である
  • 保険料の未納があっても、みんなのねんきんでは何か別の可能性がないか、諦めずに一緒に考える

年金保険料の要件をクリアできないと、いくら障害状態が重くても、障害年金を申請できません。

未納の理由が、制度の勘違いでしたら、大変残念です。

保険料を納めるのが難しいなら、免除・納付猶予という制度がありますから、ほったらかしにしないで役所に相談してください。

免除や納付猶予を使えば、障害年金の保険料納付要件において不利益を受けません。

いつか「最近は保険料の要件でひっかかる人が少なくなったなぁ」と実感できる日が来るまで、引き続き私自身も保険料納付の大切さを訴えていきたいと思っています。

  • この記事を書いた人
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岡田真樹 みんなのねんきん社労士法人代表

大学卒業後メーカーに勤務。仕事中に左手を機械に巻き込まれ、親指以外を失う大ケガを負う。転職後、障害者雇用の枠で聴覚障害・発達障害・精神障害・身体障害を持つ方々と一緒に働いた経験を持つ。障害年金の手続きを自ら行なったことから年金制度に興味を持ち、社会保険労務士試験に合格。2020年よりみんなのねんきん社会保険労務士法人で実務の最高責任者を担い、2021年に代表就任。

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